2015年03月05日

1258.スリーマイル原発事故−フクシマ2046とあわせて

2015030501.jpgスリーマイル島原発事故は、1979年に米国の加圧水型原発で起きた世界で初めてとされる加圧水型原発の炉心溶融事故である
・この原発事故は、原発先進国−米国で起きたシビアアクシデント(重大事故)であるが、日本政府と同じく全く無能だった(まともな対応ができず、避難もさせなかった)ことも理解できるし、またく真実の報道がなされなかったことも日本と全く同じである。
・烏賀陽 弘道氏が、このスリーマイル島の事故を調査した「フクシマ2046」を出版したが、やや気になる点もあったので、こちらで紹介したい


2015030502.jpg スリーマイル島原発事故は、1979年3月28日 に米国のスリーマイルで起きた原子炉溶融を伴うシビアアクシデントです。燃料棒の溶融が起きれば、セシウムが大気中に放出されるのは当然のことだと思いますが、公式の発表では


放出された放射性物質は希ガス(ヘリウム、アルゴン、キセノン等)が大半で約92.5 PBq(250万キュリー)。ヨウ素は約555GBq(15キュリー)に過ぎない。セシウムは放出されなかった。周辺住民の被曝は0.01 - 1mSv程度とされる(後述)。この被害は1957年に起きたイギリスのウィンズケール原子炉火災事故に次ぐ


 スリーマイル、チェルノブイリ、フクシマと比較表を作ってみます。
原発(PBq) 希ガス ヨウ素131 セシウム137
スリーマイル 92.5 0.00056 0
チェルノブイリ 6500 1800 85
フクシマ 11000 160 15
 フクシマの漏洩量は東電も公表していますが、今回採用した数値は、経産省発表の公式のものです。
 ヨウ素、セシウムは確かにチェルノブイリの1/5〜1/10程度と抑えられてはいますが、希ガスはチェルノブイリを上回っています。しかも、この数値は、周辺の放射線量が急上昇した3号機燃料プールの核爆発による放射能量を全く考慮に入れていない非常にナンセンスな数字なのです。
 そしてここで見ていただきたい数値は、スリーマイル島とフクシマの放出量の比較です。公式発表されたヨウ素放出量を比較しても1/100どころか、10万分の1以下、セシウムに至っては放出さえされていない(全くウソですが)のですから、比較さえできません。(セシウムが放出されていないのならば、「除染」も不要だと思いますが、著者はスリーマイルで除染活動がなされなかったことを何度も非難しています)

以上の予備知識を持って、フクシマ2046をよんでみます。

まず、なぜ筆者が、取材対象をチェルノブイリではなく、スリーマイルにしたか(p.7-p.8)と言えば

・米国と日本の政治体制が同じ
・当時を知る住民が現地に住んでいる
・一次情報が英語なので通訳、翻訳が不要

そして、筆者の出した結論は、

・原発事故と健康被害の因果関係の立証は裁判ではできなかった。
・事故の影響を巡って地元には深刻な対立と分裂が起きた。家庭内や近隣に亀裂が入った
・ほとんどの市民団体は高齢化や転居で活動を停止した

というものでした。もうすこし詳しく見てみましょう。最初の取りかかりに、TMIの事故被害を訴えていたメアリー・オズボーンさんを紹介されるのですが、それにたいして著者は次のように記述しています。

 困ったな、と思った。未知の土地で原発取材を始めると、最初の糸口が反原発の市民や団体になることは多い。彼らの方が発信が盛んだし、取材者に時間や手間を裂いてくれるからだ。そうやって書かれた記事は、知らず知らず視点が反原発よりになる。そんな記事は、記者としても読者としても好きではない。それに私自身が原発否定論者ではない
 だが他に選択肢がない。時間をかけていろいろな人に会うことにしよう。
 

次に、フクシマ、チェルノブイリ、スリーマイルの比較(p.46)
 比較のための雑雑ぱく数値で言えば、TMI(スリーマイル)事故と福島第一原発事故では放出された放射性物質の量は1:7−8、あるいは10。チェルノブイリ事故は福島第一原発事故の約10倍の規模である。ごく雑駁なひかくをする
・TM:福島第一:チェルノブイリ =1:10:100
という比較ができる。
被曝したと推計された人口も
・TM:福島第一:チェルノブイリ =約2万人:約20万人:数百万人
とほぼ・TM:福島第一:チェルノブイリ =1:10:100の規模に並ぶ

 チェルノブイリとフクシマの比較は、まあ公式発表通りだとしても、スリーマイルの放出放射能量は、
・放射能希ガスで、フクシマの約1/100 (もし、この基準で比較するとすれば、フクシマはチェルノブイリの約2倍になります)、
・ヨウ素131で3万分の1。
・セシウムに至っては比較できません。(スリーマイルは、ゼロとされている)

雑駁な数字だとしても、何らかの根拠があるとは思うのですが、具体的な数値は一切本の中には出てきませんでした(もしかしたら書かれているかもしれないのですが)。
 そして、被曝者数。フクシマの被曝者数が20万人だけだとしたら、それは大変うれしいことですが、それこそ関東圏の人も福島県中通りの人も隣県の方も被曝させられているのですから、この程度の数値だとする根拠がわかりません。そもそも福島県の人口だけで200万人近いのですから。

 しかしながら、スリーマイル島の原発事故で政府が一切頼りにならなかったことはきちんと描けていますし、健康被害で苦しんだ人がたくさんいることも、訴訟でなにがしかの賠償をしてもらった人のことなども出てきます。・・当時、NRC委員長は不必要な避難を主張して役に立たなかったことは、「原子力その隠蔽された真実」にきちんと書かれていますが、そのことについての記述はありませんでした。
 ある程度の予備知識を持ってよめば、損はない本だと思ってAmazonの書評に次のように記述しました。

取材力は素晴らしい。星3つ
投稿者 onodekita 投稿日 2015/2/28
Amazonで購入
 烏賀陽 弘道 氏の本は、「ヒロシマからフクシマヘ 原発をめぐる不思議な旅 」についで2冊目である。
著者は最初に述べているように原発問題に対して、中立の位置を取っている。このためか、ツメの悪さ(甘さ)が目についた。

まず、文中で何度もTMI事故では燃料が溶融していると記述しているのに、当局の発表「セシウムは環境害に放出されていない」をそのまま踏襲して、疑いも持っていない。フクシマでは燃料溶融が発表される前に、セシウムの検出が報道されていたのを知っているはずなのに。

さらに加圧水型と沸騰水型の基本的炉型を把握されていないのだろうか、メルトダウンしても原子炉圧力容器が健全だったTMIとフクシマの大きな違いに踏み込めていない。沸騰水型はそこに穴が空いているのだから、原子炉にとどまっているはずがないわけである。

 さらにチェルノブイリとフクシマ どちらの環境放出が大きかったかの評価も残念ながら当局の発表を鵜呑みにしており、文中に何度も

TMI:フクシマ:チェルノブイリ =1:10:100

といった評価式が出てくる。素材は素晴らしいのに、消化不良感を持った一冊だった。


 この書評に対して、著者から直々にメンションをいただきましたので、ここに紹介しておきます。



として、私をブロックされました。著者じきじきから、コメントをいただきどうもありがとうございました。

■関連ブログ
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posted by いんちょう at 22:23| Comment(6) | 原子力
この記事へのコメント
 烏賀陽氏の一連のツイートをよみながら、がっかりしております。
 小野先生のアマゾンレビューを見ると、「セシウムは環境害に放出されていない」、「TMI:フクシマ:チェルノブイリ =1:10:100といった評価式」の記述をあげて、それらが当局の発表を鵜呑みにしていると指摘されているのは明らかです。そうであれば、それらの記述の根拠、裏付け取材、反対意見の検証を答えるべきではないでしょうか。烏賀陽氏のツイートに、(鵜呑みにしたことがない。ずっと疑っているのは文中で繰り返し出てくる通り)とありますが、それにふさわしい検証がないのであれば、「ずっと疑っている」ということばこそ情緒的な表現ではないでしょうか。
 烏賀陽氏のツイートに、“あたかも「ネコが好きでも嫌いでもない動物学者はネコを研究しても消化不良である」というような貴方の偏見に満ちた発想は、…知性を失った暴論です。“とあります。そのような例え話ができるのであれば、「ライオンを庭先で放し飼いすることに賛成でも反対でもない動物学者は、ライオンの生態について優れた研究ができる」という中立的な発想は、科学を職業とするものにふさわしい、知性的な正論です、とでもいえるのではないでしょうか。
Posted by くまひろ at 2015年03月08日 13:07
こんばんは。

リトルボーイって飛行機で
運べる大きさだよね。
ウラン ○○○kg 

チェルノ4号 燃料集合体って何本?
使用ウランって何キロ?

フクシマって
1号2号3号 だよね。
溶けちゃった燃料集合体って 全部で何本?
使用ウランって何キロ?

4号は‥‥ま、いいや。

ーーーーーー

管理できなくなっちゃった
ウランの重さの比較で
いいんじゃないの?

長年かけて、染みだすんだから。
染み出し分
足してないでしょ。(*_*)
Posted by 先生の本かったよ。 at 2015年03月08日 21:00
烏賀陽弘道氏、Wikipediaで彼の問題行為についていろいろ出ていますね。
今回の一連のツイートにも納得。
Posted by saru at 2015年03月09日 22:24
こんな記事を見つけました。

「事実」は当事者の数だけある ‐ 烏賀陽弘道氏を反面教師に
http://blogs.itmedia.co.jp/sakamoto/2013/06/ugaya-dde4.html

>芥川龍之介の有名な小説「藪の中」が説くように、「事実」当事者の数だけあると思います。事象は一つであっても当事者はそれぞれの主観で起きたことを解釈して記憶し、理由づけます。その結果、暴言があったのか?言語道断の失礼な振る舞いがあったのか?そして暴力があったのかさえも相対的な当事者それぞれに違う「事実」として残ると思います。
Posted by Kayo, :) at 2015年03月10日 22:52
『ヒロシマからフクシマヘ 原発をめぐる不思議な旅 』を書いた烏賀陽弘道氏の頭なら、フクシマ原発事故からの4年間の取材で、希ガスのような体内に蓄積しない放射性物質(外部被曝のリスクはあるものの)と、体内で高濃縮されるセシウムやヨウ素との性質の違いや、それを御用学者たちが「ベクレル」という数値を利用して、あたかも同じ基準が適用できるかのようにミスリードしてきた事や、ソ連も米国も、そして我が国の政府も拡散させてしまった放射能の量を過小評価している事ぐらい全て判っているのに決まっています。この人は、これらを理解できない程バカな人間ではないでしょう。

要するにアレですよ。とても残念に思いますが。




Posted by 肝澤幅一 at 2015年03月10日 23:34
U氏の「一次情報を知らないアームチェア デイテクテイブ」という言葉に引っかかります。何を持って一次情報とするのかは非常に難しい問題で、特に核や原発関係では、一次と言っても既に歪められているだろうし、そもそも一番肝心なところは隠蔽されているでしょうから、ジャーナリストを標榜される方がそんなに簡単に「一次情報」という言葉を口にして良いのでしょうかね?取材ということ自体も、その前段階で何らかの準備というかフィルターがかかってくるのは避けられないから、厳密には「一次」というのはあり得ないのではないでしょうか。言葉が滑るように?出てくるお方なのに肝心のところの考察がない。意図的なものなのかしら...。
私も含め大部分の者は現地取材などできないわけですから、毎日せっせとアームチェアならぬコタツで(www)ネットその他でできる限り情報を集めてはあれこれ考えているのですが、その時思い浮かぶのは院長先生が「嘘は必ず辻褄が合わなくなる、真実は何処かで繋がってくる」というようなことを言われていたなあ、と。誰かが何かを言っていたら、必ずその人物の背景というか立ち位置を確認するのも習慣になりました。これも院長先生に学んだことです。二次的情報からでも付き合わせていくと色々見えてくるものがあります。
情報といえば、福島県原子力センターの第一発電所周辺の空間線量表示が2月に入ってから徐々に欠測して今は全く表示なし。ライブカメラも2/15を最後に止まってしまった(JNNの方は健在のようですが)。環境防災Nネットが三月いっぱいで中止だそうですがそれと関係あるのでしょうか。福島第一周辺のSPEEDIもそれに伴って出なくなるそうで。私はいずれもこの三年間毎日見て異変がないかチェックしていたので困惑しています。情報は出さない流れが加速しているのか。

Posted by タナトリル at 2015年03月14日 11:31
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