2015年11月09日

1332.原発を持つ電力会社の内部状況を想像する

・311が起きてから4年と8ヶ月。再稼働している原発は、未だに九電の2基のみであり、今後においても再稼働が劇的に進むという状況ではない。
・川内原発の再稼働は、今のところと目に見えるトラブルはないようではあるが、危うきこと累卵のごとしであり、ちょっとした予期せぬトラブルでご破算になる可能性がある。
・電力会社にかかっているストレスは想像を絶するものがあり、特に原子力部門への圧力が垣間見える報道がいくつか見られるため、紹介したい

 一応、2基を再稼働した九州電力。経産省官僚出身の鹿児島県知事にたすけられて、2基を再稼働している。報道を見る限り、「再稼働は当然」といった傲慢ぶりしかうかがえないようであるが、九州電力の社長は、再稼働後次のような発言をしている。

九州電力・瓜生社長「川内再稼働、原子力安全向上の出発点に」
電気新聞 2015/09/07  
九州電力の瓜生道明社長は4日の会見で、川内原子力発電所1号機の再稼働に際し「原子力の安全性向上の取り組みに終わりはない」と強調し「川内再稼働でそのスタート地点に立った」と話した。また瓜生社長は「危険性を常に自覚し、国の規制にとどまらず対策に万全を期したい」と原子力安全への決意を示した。

川内1号機の再稼働後、瓜生社長が公の場で発言するのは初めて。川内1号機の再稼働過程で苦労した点について聞かれると「一番気を使ったのは社員のモチベーション。組織は一度崩れだすと、なかなか元に戻すことができない」と強調。その上で「全社員が一丸となって自分たちの目標に向かって進んでいくという雰囲気を醸成することが、社長としての役目だった」と振り返った。

 この発言の裏を読めば
・再稼働ができずに、モチベーションが下がっていたこと
・組織が崩れる寸前だったこと
そして、
・全社員が原子力再稼働に向かって、一丸とはなりにくい雰囲気だったこと

ことが伝わってくる。社長としては、原子力を切り捨てることもできず、社内融和に神経を使った 訳である。ご苦労様。

次に、関電

関西電力が、美浜原発再稼働に固執したのは判断ミスではなかったか? 大飯、高浜共倒れのリスクも
産経新聞 11月7日(土)16時0分配信
 関西電力が大きなジレンマに陥っている。福井県に所有する3つの原発は、再稼働に向けた原子力規制委員会による審査のハードルをなかなか越えられない。どの原発を優先したらよいか、規制委から経営判断を迫られたものの、一つの原発に固執したため、逆に大きなリスクを背負い込んでしまった。関電の判断は、他の電力会社が所有する原発の審査にも影響する。果たして関電は正しい選択をしたのか、規制委側に問題点はないのか、検証した。(原子力取材班)

(中略)

 規制委には新基準施行後、計15原発25基が申請され、高浜のほか九州電力川内1、2号機(鹿児島県)と四国電力伊方3号機(愛媛県)の3原発は合格を果たしたものの、約100人の審査人員がまだ12原発の審査に追われている。

 このため、関電の八木誠社長を呼んで、どの原発を優先させるか聞くことを決めた。規制委が審査に関連して、電力会社のトップを呼ぶのは初めてのことだった。

■「期間内に審査は完了しない」

 10月末に行われた規制委の臨時会合では、田中俊一委員長が冒頭、「きょうは認識の違いがあったとしても、それを率直にぶつけあって共有できるところを共有したい」と述べた。

 審査を実質的に担当する原子力規制庁の櫻田道夫原子力規制部長の説明は辛辣(しんらつ)だった。

 「審査に必要な資料がほとんど提出されていない。審査期間を十分に取れない。工事計画は大量の技術的情報を確認しなければならない。認可に至るまで半年ぐらいの時間がかかる。審査が順調に進んでも厳しい。高浜についても、審査が終わるとは確定できていない」

 これに対し、八木社長はまず「提出資料が遅れていることに、まずもっておわびする」と陳謝すると深々と頭を下げた。審査を急ぐために、耐震評価変更に関する再計算を通常12カ月のところ、メーカーの協力をもって、9カ月にすることを約束した。

 八木社長が最も強調したのは、次のことだ。

 「大飯、美浜をはじめプラントの審査をバランス良く進めていただけるようお願いする。経営上いずれも重要なプラントと位置付けている。美浜も所定の期限までに審査に適合させてまいりたい。審査には、必死で全力で対応していく。効率的にバランスよく審査してほしい」

 しかし規制委の更田(ふけた)豊志委員長代理の表情は厳しかった。

 「事実上、5基を同時並行で審査することはできない。リソース(審査の人員)は逆さに振ってもこれ以上ない」として、美浜に固執する限り、大飯、高浜の審査を遅らせることを指摘した。

■「脅してるつもりはない」24もの地震動

 特に問題は、美浜の基準地震動(想定される最大の揺れ)が24パターンあることだ。先に再稼働した川内1、2号機では2パターンしかなく、高浜の場合は7パターンだった。

 機器や設備の耐震設計では、一つ一つの地震動のパターンに照らして計算する必要がある。単純に計算して川内の12倍もの手間がかかるということだ。

 このため、更田氏は「ごくざっくり見積もってもはるかに厳しい。今からお互い全力を尽くしても、なかなか間に合うか確信持てる状況ではない。脅してるつもりはない」と美浜の審査打ち切りを示唆した。

 伴信彦委員も「失礼を承知でいうと、全力と言うが、こういう(聴取の)機会を持つことが厳しいことを象徴している。取捨選択をしなくてはいけない。このまま進めると、すべて共倒れになるリスクがある。それを承知でそういう回答をするのか」と厳しく追及した。

 八木社長は譲らない。「いずれのプラントでも経営上重要。早期の再稼働をして、立地地域の皆様にこたえていく。必死で全力で対応していく。効率的バランスよく審査してほしい」と同じ言葉を繰り返した。

■規制委側の“負い目”はないのか

 規制委側にも問題がある。平成25年7月の新規制基準施行当初から、審査体制の不十分さは指摘されており、技術者の中途採用もしてきたが、人数的にはそれほど変わっていない。

 取材班は、田中委員長に対し、なぜ規制委が審査体制を充実させてこなかったのか、関電に選択させなければならないという「負い目」はないのか、と聞いてみた。

 田中委員長は「負い目は全く感じません。与えられたリソースの中で、できるだけ拡大して相当努力してきたから」と答えた。

 取材班が感じたのは、関電はもはや、自ら決定する気はないということだ。美浜をあきらめるのが最もリスクの低い選択だと思うが、それでは原発が全てなくなる地元の福井県美浜町や、原発の再稼働で利益を被る株主などへの説明が果たせない。

 このため、規制委の審査を可能な限り続け、あくまでも規制委が「審査打ち切り」を判断してもらうことで、対外的な説明を付けようとしているように感じる。

 関電にとっては来年が正念場だ。美浜の存続はあるのか、それとも共倒れしてしまうのか。今後も目が離せない。
 産経新聞にしては、随分と踏み込んだ記事である。ここまで書ける記者がいるとは、産経、侮りがたしである。(同じ報道を毎日新聞と比較するとよくわかる)

 産経新聞の言うとおり、

規制委の審査を可能な限り続け、あくまでも規制委が「審査打ち切り」を判断してもらうことで、対外的な説明を付けようとしている

つまり、独立した企業としての判断はなく、面倒は国に押しつける逃げの電力会社の姿勢・・・リング外からタオルを投げ込んでもらうのを待っているわけである。タオルさえ投げ入れてくれれば、選手としては言い訳をする必要がなくなる。・・これぞ、電力の真骨頂である。こんな経営判断などできない会社に、原発事故収束などできるはずがないのは明らかである。偉そうにするのは、自分のケツを自分で拭けるようになってからいえである。

 事故を起こした東電はどうなっているか。着々と原子力を切り捨てる準備を進めている。

東京電力からTEPCOへ、「実績やプライド、かなぐり捨てる」
2016年4月に4つの会社に分割する東京電力グループの新しい社名とシンボルマークが決まった。「挑戦するエナジー。」をメッセージに掲げて、1951年の会社創立時に発揮したベンチャー精神を呼び起こす。送配電事業会社だけは別のシンボルマークを採用して発送電分離に備える構えだ。
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 競争力のある火力、送配電、小売りを別会社にして、なんと「原子力発電」をホールディングス(持ち株会社)が所有するというあり得ない形態を打ち出してきている。これは、原子力発電のコストを公にしない方法であるとともに、切り捨てる準備と言っても良いのではないか。少なくとも、何の判断もしない関西電力よりは、生き残りに向けて必死であることだけは伝わってくる。

四国電力には、かつてはまともな経営者もいた。原発列島より
75年5月の「国際経済」誌のインタビューに対して、山口恒則四国電力社長は、こう語っていたのだった。
「われわれは国の政策でやれというから急いでやったわけでしょう。・・・燃料サイクルの問題の解決がついていないのに日本でどんどん軽水炉をつくっていく。本当におかしな話で、濃縮が日本でできるわけでなし、再処理が日本でできるわけでなし、とにかく発電所だけがどんどんできていくのは早過ぎます。」 


 どんな組織でも外側からの圧力だけでは崩壊しない。内部が崩壊して初めて、全体が崩壊するのである。原子力を抱え込んでいる電力会社が、内部から崩壊する日もそれほど遠くないであろう。どんなに政府が推進し、経済界が推進していても、あきらめる必要など全くないのである。

■関連ブログ
原発コストが一番高いと認めた電事連(関電社長)2013年06月13日
政府も電力も自治体も漁協も全部−同じ穴のムジナ2011年07月30日
電力社員を味方にしよう2011年05月23日

 
タグ:電力
posted by いんちょう at 20:24| Comment(5) | 原子力
この記事へのコメント
ナルホドね!
八木さんは匙を投げたということだぁ、、。
裁判で止められとのも結構効いてるのかなぁ、、?
まぁ、規制委員会田中達も自分の首は絞めたくないもんな(笑)
それこそ生き残りが掛かってる(怒)
そうなると政権がひっ繰り変えれば、次の再稼働時に川内や四国も止められる訳だ!規制委員会のメンバーをもう少し脱側に入れ替えれば、もっと厳しく審査する訳だから、動かすのが難しくなるんだな!
Posted by 武尊43 at 2015年11月09日 21:11
院長先生
さすが、現場にいらっしゃった感覚は違いますね。どうみてもこれから退潮に向かうエネルギー部門、多くの尻拭いや鋭い質問が待ってる部署に回された人間が、目を輝かせて働くとはとても思えない。国の都合で始めたことなのに、役人も政治家も自分の息の頃しか考えていない、バカバカしくてやってられるか、と思うでしょう。第一、電力会社に就職したら羨望の眼差しで見られていたのに、何でこんなことになるんだ?俺の未来を返せ、と思うんじゃないかな。G大学消化器外科の医師たちが思ってることと似てるかも。
Posted by Tokyo at 2015年11月09日 22:06
鹿児島県知事は、経産省出身なのですか。
本を読んでいたら、電気事業連合会HPよりと有って、
電源三法交付金が、文科省に1411億円、経産省に2051億円と有った。
合わせて、約3500億円。
経産省の2000億円超のために、文科省1500億円弱のために、彼らが原発推進のためにめちゃくちゃな施策をしているのだと、合点がいきました。
電力会社も今更あんまりやりたくないみたいに、先生の解説で理解しました。
電力会社に腹を立てていましたが、経産省と文科省の「膿」を出す必要が有りそうですね。


Posted by ナイーブ at 2015年11月12日 21:21
全然止める気は無いです
リニア工事開始に伴って
浜岡2機、新潟2機稼動
送電線も揚水発電も準備済み
十数年前ほど前に取材したら 
取締役がでてきたそうです。

新潟は1戸1万円交付金ずっと払ってるし
Posted by 農家 at 2015年11月13日 10:18
規制委員会の否も認めるべきでは?
具体性を欠く、非合理的に厳しガイドラインだけ出しているだけ。許可して欲しければ完璧な資料を作ってこいって。

そんなふうに、手続きや立場にこだわってばっかりいるから、本題の安全性の判断が穴だらけなんですよ。
Posted by 霞ヶ関 at 2015年11月28日 00:37
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