2020年05月14日

大相撲28歳コロナ肺炎死亡から考える−自粛解除は発熱後の医療が確立してから

 本日、大半の都道府県で「自粛」が解除されることになりました。この3ヶ月もの間、ほとんど何もせず、検査の拡充もせず、患者の実数が発表の10倍〜30倍かわからないのにもかかわらず。大半の人はまだ早すぎると漠然と考えていることでしょう。先日、大相撲の勝武士さんがコロナ感染のため28歳で死亡されたことが発表されました。この記事を元に、これからの対応をどうしたらいいのか、考えてみましょう。

高田川部屋の勝武士さんがコロナ感染死 28歳
[2020年5月13日12時58分]
日本相撲協会は13日、新型コロナウイルス感染のため入院していた高田川部屋の三段目の勝武士(しょうぶし)さん(本名・末武清孝)が、同日午前0時半にコロナウイルス性肺炎による多臓器不全のため都内の病院で死去したことを発表した。山梨県出身。28歳だった。日本のプロスポーツ選手が新型コロナウイルスの影響で死去するのは初めて。国内で20代の死亡は、初とみられる。


28歳の若さで糖尿病の持病があったのはおどろきですが、それ以上に恐ろしいのは臨床経緯です。

▽4月4、5日 38度台の発熱。師匠らが保健所に電話をかけ続けたが、つながらず。

▽4月4〜6日 近隣の複数の病院に依頼したが、受け付けてもらえず。

▽4月7日 近隣の医院にも相談したが、医療機関は見つからず。

▽4月8日 熱が下がらず血痰(けったん)が見られたため救急車を呼んだが、なかなか受け入れ先が決まらず、夜になって都内の大学病院に入院。簡易検査の結果は陰性。

▽4月9日 状態が悪化し、別の大学病院へ転院。

▽4月10日 PCR検査で陽性と判定。

▽4月19日 状態が悪化し、集中治療室で治療を受ける。

▽5月13日 午前0時30分、都内の病院で死去。
最初の発熱は、土日に当たります。師匠らが電話をかけてもつながらない・・・そもそも、土日の発熱は救急病院の担当のはずですが、現在は指定医療機関以外の医療機関は、コロナに対して何もできませんから断らざるを得ません。2時間以上電話をかけられるほど元気のある人は、電話をかけるなという暴言を吐いた人はどう釈明するのでしょう。


4/6は月曜日ですが、どの病院にも断られます。そして、4/7には近所の医院に相談しても見つからず。大相撲の親方ですから、それなりに医療機関にも知り合いがいるはずです。それでも、見つからないのですから、一般人にとっては、発熱したときに見てくれる病院を見つけることは不可能です。4/8に救急車を呼ぶほど悪くなって、ようやく依頼するも、受け入れ先が見つかりません。4/10にPCR陽性とわかり、ようやくまともな治療ができることになりました。4/19にはICU入室、そして5/13に死亡。です。

もし、当初の発熱の時に直ちにPCR検査ができていれば、ここまでの苦労はなかったはずです。なぜ、診断未確定の患者の受け入れができないかと言えば、

PCR陽性・・・PCR陽性患者の相部屋が可能。
PCR陰性・・・陰性ならば、一般的な肺炎の治療(ただし、少なくとも2回のPCR検査後)
PCR未定・・・どちらか全くわからないため、この人だけ特別に処置する必要がある。感染症病院ははっきりしないため受け入れしない(病床にそれほど余裕がない)、そして一般病院はもちろんコロナ肺炎対応なんてできませんから受け入れしない。

 発症2日前からウイルスは排出しているという見解ですから、4/4時点で陽性が確定し、入院治療ができたはずです。救急車で入院先がきまるまでの親方の心労は、想像にあまりあります。

 ところで、大相撲は一ヶ月前にコロナ感染者が出たと次のような報道がありました
新型コロナ>大相撲 部屋で感染連鎖か 寝食共に、防止難しく
2020年4月26日 朝刊

 日本相撲協会は25日、高田川親方(元関脇安芸乃島)と十両白鷹山を含む計6人の新型コロナウイルス感染を発表した。10日には幕下以下の力士1人の感染が判明していて、これで計7人に。相撲界のコロナウイルス感染が拡大した形で、番付発表を27日に控える夏場所の開催可否の判断にも影響を与えそうだ。
 発見が遅れたため、高田川部屋21名のうち6名も感染が広がってしまいました。これが4/4にせめて隔離ができていれば、ここまでは広がらなかったでしょう。「10日に幕下以下の力士一人の感染が判明」というのが勝武士だったと思われます。

 厚労省もあわてて、次のような通達を出していますが・・・
厚労省、救急患者受け入れ改善を要請
2020年5月14日 2時17分
救急患者の受け入れが困難な事例が報告されていることから、厚生労働省は13日付で都道府県に通知を送り、改善を求めました。通知では、「30分以上搬送先が決まらない場合」など具体的な要件を挙げて対応を検討しておくよう要請しています。

厚生労働省は、発熱やせきなど新型コロナウイルスを疑う症状のある救急患者の受け入れ先が決まらず、収容までに時間がかかる事案が都市部を中心に発生していることから、13日、都道府県などに対し、改善を求める通知を出しました。

通知では、感染が疑われる救急患者を速やかに受け入れられるように都道府県の調整本部や保健所、救急医療機関、消防機関などがあらかじめどのような体制で連絡や調整を行うのか、検討し共有することを要請しています。

その中では、消防機関が医療機関に対し「30分以上」あるいは「4か所以上」依頼をしても受け入れ先が決まらない場合や、患者の状態が悪化した場合などは都道府県の調整本部などに連絡するといった具体的な要件も含めた検討も求められています。
また、13日に承認された抗原検査キットは、迅速に検査が行えるため救急患者に有効だという考えも示しました。日テレNEWS24
要請を出せば収まるものではありません。救急車を呼ばなければならなくなる以前に、診断をつけておかないとどうしようもありません。それにはPCR検査を進めていくほかに対処法はありません。記事中にある抗原検査はしないよりはまし程度で、陽性ならばもちろん感染症指定病院が引き受けることとなると思いますが、陰性とでても否定することはできませんから、今と同じです。
 今の一般医療機関では、PCR検査ができません。それは、保険収載はされているものの、指定医療機関以外での検査を「禁じている」からです。(保険請求ができません)患者は、コロナかどうかを心配してきているのに、診断にはほとんど役に立たない胸部レントゲン、血液検査を危険を冒してまでするモチベーションを医療機関は持つことがなかなかできません。
 ドライブスルー的に駐車場で検体を採取したり、あるいは唾液を使った検査ができれば一般医療機関でも(私のところでも)実施したいと考えている医師はたくさんいます。が、なにしろ民間のPCR検査の道が閉ざされていますから、どうしようもありません。

 このような状態で、明日から自粛解除されて、2〜3週間後に自分が発熱したと考えてみてください。保健所はマニュアル対応しかできませんからPCR検査はまずしてもらえません、かかりつけの医師はPCR検査はできませんから、解熱剤を出してくれる程度です。だんだんと悪くなってきたら、救急車を呼んでも搬送先が決まりませんし、そもそも自粛明けでみんなが感染したら4月上旬のころと同じ状況(3月のあの緩んだ三連休の2〜3週間後です)となるのは火を見るよりも明らかです。

 政府の自粛解除後、1か月は様子を見ることが、自分の命を守るうえで一番大事だと思います。くれぐれも気を付けてください。

今のままでは、早晩救急車も来なくなる2020年05月05日
検査態勢の確立していない現時点での自粛解除は非常に危険2020年05月12日

 
posted by いんちょう at 17:32| Comment(2) | Covid-19
この記事へのコメント
小野先生 「日経メディカル」14日付け記事、徳田医師による突然の重症化の仮説をどう思はれますか。

緊急寄稿◎ある呼吸器内科医の仮説
COVID-19重症化の謎とマイクロバイオーム関与の可能性
徳田均 (JCHO東京山手メディカルセンター)
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t344/202005/565493.html?n_cid=nbpnmo_mled_html-new-arrivals
Posted by 渡邉 建 at 2020年05月14日 22:56
勝武士は小兵力士で、あまり出世しなかったけど、
巡業で初切をして観客を楽しませるエンターテイナーでした。発熱が2日続いた時点で、親方は救急車を呼ぶべきでしたね。糖尿があったとしてもまだ28歳、投薬開始が早ければ救命できたはず。力士のような巨漢は気道が狭くて挿管も難しいし、相撲部屋で雑魚寝しているから部屋の力士に感染が広がっているかもしれない。これで14日の感染者数が30名、その殆どが院内感染クラスターということを考えると都内は40〜50万人は キャリアがいてもおかしくないですね。
Posted by KOKICHI at 2020年05月15日 09:22
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