2020年05月21日

PCR検査は日本医療の黒船だ

 中国武漢でコロナ肺炎が流行し始めてから、ずっと情報収集しています。今回の流行への対応を見ていて、どうしても理解できないことが2つありました。

1.中国は、なぜ一か月足らずでCovid-19を発見することができたのか
2.なぜ日本の医師はPCR検査を忌避するのか

 この2つの疑問に納得のいく答えを見つけることは、どうしてもできませんでした。とくに2番目−専門家集団を中心として、PCR検査がいかに劣った検査であるかを証明しようとする動きさえあります。諸外国でやっているのになぜ日本の医師だけが反対しているのか。「ガラパゴス」で片付けるのは簡単ですが、本当の理由が見えないと人間納得出来ませんものね。おのおの詳しく見ていきましょう

1.中国は、なぜ一か月足らずでCovid-19を発見することができたのか
 これが最初から一番不思議なことでした。もし、日本に何か新興感染症が起きたとしましょう。最初の1例目は、もちろん原因がわかりません。そして、どんどん感染が広がる、何かおかしいと思って海外の文献を探っても、あまりピンとこない。保健所に相談しても、そもそもそんな能力などありませんから、無意味です。細菌培養を何度もかけてみるけどわからない、どうやら感染症らしいのはわかるが、原因不明なまま市中感染が広がり、どうしようもなくなるのは、明らかです。

 急激な転機をたどって原因不明のまま亡くなる方は、どうしてもいます。いまでも、その原因を探るために病理解剖は少ないながらも行われており、その剖検(ぼうけん)の討論会が国立病院で年に数回あります。勉強になるため、ほとんど全部に参加しているのですが、結局原因不明であることが非常に多く、文献精査、病態の分析はしますし、培養もします。でもそこまで。PCR検査をして、ウイルスを同定することなどありませんでした。
 そもそも、日本の臨床の中ではウイルスの確定診断にPCRを使うことはほとんどありません。いろいろ調べてどうしてもわからないときに、最後の手段としてPCRがでてきます。そして、それが保険で認められることはほとんどありません(自費になります)。まあ、ウイルスの特効薬は、

・B型、C型肝炎
・HIV
・帯状疱疹
・インフルエンザ

位しかありませんから、「診断をつけても意味がない」と言う考えに私自身もとらわれていました。コロナ肺炎でも、そう主張する医師がたくさんいますね。だから、そう考えていましたところ、昨日ツイートで・・


 えっ?STDウイルスパネル??呼吸系統ウイルスPCR? なに、それ?という感じです。


ますます、混乱・・・







 水疱瘡、風疹、ヘルペスまでPCRを回すとは・・・日本の診断は、所見(匠の技)です。あるいは、抗体検査ですが、抗体ではわからないことも多いのです。(ペア血清をとって、IgM, IgGの変化を見たりします)直接ウイルスを調べられたらそれが一番いいのも確かです。ウイルスを同定すれば、抗生剤は不要と根拠を持っていえますからね。日本はまず抗生剤を出して治療します。効果なければ考えると言う治療法です。なんか、情けないですね。こうやって指摘されると

そうこうしているうちに


20種類の呼吸器感染症病原体を高精度・短時間に同定する新検査を11月から保険適用−厚労省
2019.11.5.(火)
本検査は、保険診療上、「感染症診療を専ら担当する常勤医師(専ら感染症診療経験が5年以上ある者に限る)が1名以上」、または「臨床検査を専ら担当する常勤医師(具体的には勤務時間の大部分、検体検査結果の判断補助を行うとともに、検体検査全般の管理・運営、院内検査に用いる検査機器および試薬の管理についても携わる医師を意味し、この経験が5年以上ある者に限る)が1名以上」配置されている保険医療機関に限り実施できる。

本検査は、マイクロアレイ法(定性)によって鼻腔咽頭拭い液中の▼インフルエンザウイルス▼コロナウイルス▼パラインフルエンザウイルス▼ヒトメタニューモウイルス▼アデノウイルス▼RSウイルス▼ヒトライノウイルス/エンテロウイルス▼マイコプラズマ・ニューモニエ▼クラミジア・ニューモニエ▼百日咳菌―の核酸検出を同時に行った場合に、以下の点数を合算した点数(963点)を準用して算定できる。
コロナウイルスが含まれていますね。つまり、発熱がある患者に対して、この種の検査をすれば、コロナウイルスが同定される。それが複数の患者から検出されれば、そのあとはさらに塩基配列をしらべて、Covid-19の塩基配列の特定までできるわけです。この検査があれば、一ヶ月程度で同定されたのも頷けます。

 つまり、海外では発熱患者、その他ウイルス性疾患が疑われる患者に同定のためにPCR検査が行われるのは、半ば常識であるという事実です。これで、1番目の疑問が氷解しました。

 では、2番目は。これも全く同じです。海外では、発熱患者のPCRを回すことは珍しいことではない。だから、検査を増やそうとしても医師自身がよくやっている検査ですから、反対することなどもちろんしません。ところが、PCR検査をよく知らない医師たちは、いかにPCR検査が当てにならないかを「証明」しようとしています。
 日本以外ではそのようなことは起きていません。なぜか。ロシアははっきりとはしませんが、医学教育を母国語だけで行っているのはおそらく、日本だけでしょう。その他の国は全部英語で勉強しています。だから、エリートと呼ばれる立場の人は全員が英語を話せるわけです。英語で勉強しているわけですから、治療も英語圏と全く同じ。PCR検査自体もきちんと理解し、必要なことはわかっていますから、どんどん増やす。ところが、日本はそんな素地がありませんし、PCR検査をすると匠の技が否定される(たとえば、風疹の鑑別診断能力が不要となる)ために一生懸命PCR検査の否定に走るわけです。
 偽陽性が〜、偽陰性が〜と海外では全く問題にさえならないのに日本の「専門家集団」のなかでは、まことしやかにPCRが実戦では役に立たないことが「証明」されており、それに納得する「オウム真理教症候群」の人間が異常に多いことは今までさんざん説明してきました。


 不思議なのは感染症専門医集団。とうぜん、米英あるいはその他各国で研修を受けた経験がある人はたくさんいるはずです。海外では当然のPCRをなぜ日本でしようとして、これは世界標準だと主張しないのでしょう。それどころか、日本での検査を制限しようとして一生懸命のようにしか見えません。だれひとり、海外で研修を受けたことがないとは、どうしても考えられないのですが。
 もし、彼らの一人でも声を上げてくれれば、こんなぐだぐだの状況にはならなかったはずです。

 日本にはコバスをはじめとして全自動のPCR機械がありますが、それはほとんど使用されていません。これは、次の厚労省のツイートからもわかります。
ここには呼吸器官系、STD関係のウイルスのことが一切出てきていませんね。つまり、日本ではこの手の検査がほとんど行われていないことが証明されているわけです。

 つまり、日本の医療は竹槍で戦っているんです。そこに鉄砲が入ってきたら、秩序を乱しますから、当然一致団結して、反対します。

 あるいは・・イソップの酸っぱいブドウと同じ
「イソップ物語」にみえる寓話(ぐうわ)の一。キツネがおいしそうなブドウを見つけるが、高いところにありどうしても届かない。しまいには「あのブドウはきっと酸っぱくてまずいに違いない」と言って去る。
そもそも検査の概念自体がほとんどないのですから、反対するわけです。皆さんも働いているとよく目にするでしょう?明らかにこちらの方が効率がいいのに、絶対に導入しようとせず昔のやり方に固執する。たとえば、役所が最後の最後まで給与が銀行振り込みにならなかったのは、お金を数える人が失職するから労組が反対しているからだと言われていました。

 あるいは・・・海外がレーダーを駆使して敵を発見し攻撃を仕掛けているのに対して、日本は昔ながらの偵察機で敵を発見しようとする。レーダーを使えば、敵を遠くから発見出来て、こちらの被害も少ないといくら主張しても、
・レーダーには誤差がある
・もし、レーダーで大量の敵が発見されても、当方には武器が少ないからかえって困る
というへりくつで絶対にレーダーを採用しない。どうです?これが今起きていることと全く同じですよね。

 だから、いくら医師にPCRのすばらしさを説いても全く理解出来ないどころか、むしろ「秩序」を乱す検査だとして絶対にしないのです。そして、一番簡単にできる検査であるにもかかわらず、ありとあらゆる検査をやったあとで、最後の最後にまるで神棚に供えてあるかのようにおごそかにPCR検査の儀式を執り行うわけです。

 最初、自動PCR検査のことを指摘していたのは、動物病院の先生でした。理由がここまできてようやくわかりました。動物は何もしゃべりませんし、所見もはっきりとはわかりません。しかし、診断しようとするとPCR検査が手っ取り早い。しかも、100%自費ですから保険に縛られることもない。おそらく、獣医部門では病気同定のためのPCR検査が比較的広範囲に行われているのではないでしょうか(どなたか、教えてください)

 今回のコロナウイルス Covid-19 は、「太平の眠りを覚ます蒸気船」 − 黒船 だったのです

「オウム真理教症候群」・・高IQが陥りやすい罠
全自動で行うPCR検査−日本メーカーも主役の一つ、ガラパゴス利権で使用出来ず

  
posted by いんちょう at 17:55| Comment(10) | Covid-19
この記事へのコメント
結果としてお犬様よりヒトが劣る国だったのですね、日本
Posted by いて座の牡牛 at 2020年05月21日 20:01
ありがとうございます。非常によく分かりました。優秀な方たちがたとえ留学してそのときは海外のやり方を理解しても、数年で国内に戻ると結局周りに合わせた流儀で仕事をしている例は数多く見ます。
Posted by 岡田謙介 at 2020年05月21日 20:27
1.ゲノム解析技術が進んだからです。
元々、人DNAでもお国柄、国家として大量の解析を行っているのはご存じないのですか?

2.PCRには制度を上げようとすれば
かなりのテクニックと慣れが必要です
テクニックのない人がやると大量に擬陽性や
偽陰性が出てしまいます。
現状、全国で500人足らずしかいませんから
何故、精度が必要かと言えば陰性の人を擬陽性や陽性と判断したりして
コロナ病棟に収容って間違いを犯すわけにはいかないからです

医療関係ならそれぐらい判りそうなものですがね。
Posted by Apophis at 2020年05月21日 23:31
素晴らしい解析です。
全国紙 特別コラム
医師会報とか載せていただきたいです。


世界史 文化 倫理から推してゆく理論は
強力です

政権交代 したら、厚労省、原子力災害対策顧問
を先生に期待します
Posted by 農家 at 2020年05月21日 23:35
先生納得です。

しかしですね。

冒頭で書かれた様な感染症が、
重篤だった場合を考えると...

今のままだと日本は破滅すると思います。

今回のコロナは日本人は既に免疫を持っている?説が
言っている人がいますから??西洋よりましで済んでいる。

第二次大戦で支配したのは空母です。電撃戦です。

戦艦ヤマト?そんなアホな?

その発想が無いと駄目ですね。

Posted by 癘{俊夫 at 2020年05月22日 11:29
> おそらく、獣医部門では病気同定のためのPCR検査が比較的広範囲に行われているのではないでしょうか(どなたか、教えてください)。

→ 私自身は全然畑違いなのでわからないのですが、埼玉県の動物病院のブログに、新型コロナのこともあわせて、そのあたりのことが書かれているものを見つけました(下のURL)。

 http://cyuoh-ah.jp/blog/2060/

(以下引用)
余談ですが、我々獣医師もPCR検査によって確定診断している疾患が多数あります。

その代表に犬や猫のリンパ腫があり、クローナリティーの有無及びタイプ分類を行っています。

リンパ腫にはT細胞性リンパ腫とB細胞性リンパ腫がありますが、B細胞性リンパ腫に比べ化学療法に反応しにくいT細胞性リンパ腫は予後が悪いため、リンパ腫の予後判定にPCR検査を実施しています。
(引用以上)

このブログは4/18付けのもののようですが、あわせて、「世界の多くの国で実施されている全自動PCR検査を支えているのは、実は日本の技術なのです」と指摘されています。ロシュ社のこと、PSS社のこと、及びPSS社からロシュ社への技術提供(OEM)のことも詳細に書かれています。

ブログの終わりのほうには、追記として、「唾液からも効率よく全自動で核酸を抽出することが出来る日本製の機器」が紹介されています(エール大学のページの引用)。

やはり、小野先生ご指摘のように、獣医さんのほうがPCRを含めて検査全般に対する意識が高い、という一面があるようですね。
Posted by 宮田 将 at 2020年05月22日 12:34
すみません、先ほどの私の12:34付のコメント、中央動物病院のブログは、小野先生の過去記事で既出(紹介済み)でしたね。失礼しました。

 http://onodekita.sblo.jp/article/187456221.html

「犬や猫のリンパ腫検査」のくだりと、追記されている「唾液用PCR機器も日本製」の部分だけお読みください。
Posted by 宮田 将 at 2020年05月22日 12:46
機材は世界一
PSSがロシュにですか!

犬猫以下の国民

=医療アルコール=

https://twitter.com/onodekita/status/1263598246246539268

国がアルコール押さえて
 業者 高いビン詰め料 配送料
元大臣最高顧問
Posted by 農家 at 2020年05月22日 14:36
久しぶりにコメントします。
RCA検査が、「匠の技」への冒涜である、ということの理由がよく分かりました。ありがとうございます。
昨年度、ウチの姫の手術で、大変な出費でした。せめて、医療費控除の対象に忍び込ませようかと思いましたw しかし、的確な検査に始まり、手術入院と、必要不可欠な世界基準の医療でした。動物病院では欧米での経験がそのまま生かされています。院長は日米で勉強なさり、NYで数年実務経験も積まれた方でした。なので、患者の保護者対応も、世界規模でした。
ウチのあたりは、イナカで、「コロナを出し」後ろ指を刺されぬようにすることが、、最大の自粛ツールになっています。実際、家に投石、落書き、家族へのいじめ、などなど。同県の別のイナカでは、住めなくなって引越し、したとか。三月の休校措置では、カラオケに出入りしたとか、学校に苦情が来てましたが、地元に感染者が出てからは、親がやんちゃな子も家から出るなと。
Posted by Lunachan335 at 2020年05月23日 10:17
安倍政権はコロナ対策で、非常に良い結果を残した。安倍が嫌いな人々は悔し涙に濡れ、未だにPCR検査を増やせと喚く。あまりにも見苦しい。
Posted by 縄文のくま at 2020年05月25日 18:20
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