2020年06月09日

日本のPCR検査はダブルスタンダードだ

 全世界の中で、日本だけがPCR検査件数を当初から絞りまくり、それは今でも続いています。この検査は保険収載はされているものの、感染症指定医療機関、もしくはそれに準ずる病院でしか算定することができません。それは採取時にほとんど感染の危険のない唾液検査が認められても全く変わることはありません。あいかわらず、開業医から直接検査をすることはできず、検査は増えていません。あいかわらず、アフリカ諸国よりも低いレベル。
 どうやら、国立感染症、厚労省、そして医師会のトップで、大方針としてそのように決めてしまったのではないでしょうか。そして、医師会の「提案」で、地域のPCRセンターを作れば、そこは開業医の紹介で検査ができるようにするところまでは進んでいる状況です。
日本の医師は、21世紀の診断法(厳密には20世紀後半)であるPCR検査自体を知らず、そのため自らもその導入自体に反対している状況です。遺伝子工学の結晶のひとつであるPCR検査を認めず、抗体検査しかしておりませんから、当然コロナ関連の論文は目を覆いたくなるほど少ない
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元々検査をけちっているのに、検査をしてもあまり意味がないという論文が出ただけで、日本の優秀さが証明されたと大騒ぎ




 いや、そもそも症状のある人にさえ、検査をしなかったのが日本なんですが。。たった一つの論文で我が意を得たりと「宣伝」するのはおかしいでしょう。この論文によれば、

新型コロナPCR検査、偽陰性が多い期間は?
提供元:ケアネット 公開日:2020/05/22
  新型コロナウイルスのPCR検査の感度や特異度は十分に特定されておらず、偽陰性となる可能性が最も高い期間はよくわかっていない。今回、米国ジョンズ・ホプキンズ大学のLauren M. Kucirka氏らが7つの研究のプール解析を行ったところ、偽陰性率は、発症後3日目(感染後8日目)に最も低くなることがわかった。著者らは、偽陰性の可能性を最小限にするために、検査は発症から3日間待って実施すべきとしている。また、臨床的にCOVID-19が疑われる場合は、PCR陰性のみで除外診断すべきではなく、臨床的および疫学的状況を慎重に検討する必要があると述べている。Annals of Internal Medicine誌オンライン版2020年5月13日号に掲載。

 本研究は、鼻咽頭または咽頭スワブを用いたPCR検査のデータを有する7つの研究のプール解析(入院または外来患者計1,330例)で、感染(曝露)後もしくは発症(症状発現)後の偽陰性率について、階層ベイズモデリングを用いて算出した。

 主な結果は以下のとおり。

・偽陰性率は感染1日目が100%(95%CI:100〜100%)であり、4日目が67%(95%CI:27〜94%)と5日目(COVID-19の典型的な発症日)まで減少した。
・発症日(感染5日目)の偽陰性率は38%(95%CI:18〜65%)であった。
・感染8日目(発症から3日目)の偽陰性率は20%(95%CI:12〜30%)と最低となり、その後、9日目(21%、95%CI:13〜31%)から再び増加し、21日目に66%(95%CI:54〜77%)となった。

 なお、本研究の限界として、プール解析した基の研究のデザインの不均一性により、推定が不正確であることを挙げている。
(ケアネット 金沢 浩子)
これは、偽陰性が発症前には非常に多くなると主張しているだけで、無症状の人の検査を否定しているわけではありません。まず、一つここが重要です。

「真理は時の娘」

といわれるように、このような研究が出たときに大事なのは、他の研究でも同じことが指摘されているかです。

これを見ると、ホプキンス大の分析とは全く違います。最初が特に多い。症状を待つのはナンセンスだといえます。それは、厚労省も認めており、濃厚接触の定義が、変わったことからも読み取れます。

積極的疫学調査実施要領における濃厚接触者の定義変更等に関するQ&A(2020年4月22日)
国立感染症研究所感染症疫学センター

Q1 濃厚接触者の定義がどのように変わったのですか
主に以下の2点を変更しました。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染者と接触した日のはじまりを「発病した日」から「発病した日の2日前」に
濃厚接触と判断する目安を「2メートル以内の接触」から「1メートル以内かつ15分以上の接触」に

Q3 どのような根拠に基づいて変更したのですか

WHOの3月20日付け「世界におけるCOVID-19サーベイランスに関する暫定ガイダンス(Global surveillance for COVID-19 caused by human infection with COVID-19 virus Interim guidance 20 March 2020)」を参考にしています。WHOの変更をうけて、これまでの国内の疫学調査の結果や海外からの知見を含めて検討し、定義の変更をおこないました。 https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/331506/WHO-2019-nCoV-SurveillanceGuidance-2020.6-eng.pdf
 感染症も認めているわけですから、発症した日の検査でPCRが偽陰性になるのは、どう考えても矛盾します。
 PCR検査は大変特異度が高く、かつ感度も高いため、検体内にウイルスが含まれていればかならず陽性になります。そして、唾液や鼻咽頭にウイルスが含まれていないのであれば、感染させる能力は低いといえます。

次の押谷氏の書いた論文分析からも
重症者を検知器とするクラスター対策およびその帰結について
2020-06-07

これを読むまで私ははっきりとは認識していなかったのですが、Oshitani (=押谷仁) 氏のこの説明によれば、日本のいわゆる「クラスター対策」というのは、社会に偏在する重症化リスクのある者を、いわば検知器としてつかう技法なのですね。クラスターを引き起こす感染者は症状がなかったり軽かったりするので、それを検査して摘発するのはむずかしい。しかしクラスターが連鎖して感染が拡大すればどこかで重症化する患者が出てきてみつかるので、そこからさかのぼって感染連鎖を追えば、事後的にクラスターを見つけることができる、と。

このような対策をとるということは、クラスターを発見するには重症者の発生をまたなければならないことを意味します。これまで、高熱が数日以上つづき、病院に運び込まれて特徴的な症状が確認され、医師が何度も要請してやっと検査が受けられる、といった現状が報じられてきました。そうやって対象を絞り込めば、いわゆる「事前確率」が高いので効率よく感染者がみつけられるのですが、みつかった重症者はかなり高い確率でそのまま死亡してしまうわけです。

Shibuya (=渋谷健司) 氏のこの発言は、クラスター対策と病院・介護施設での大量感染との内在的な関係を意識してのものなのかどうかはわかりません。しかし、以上のような考えに基づくなら、クラスター対策の「成功」(=乏しい検査資源を効率よく使って感染連鎖を特定する) は、重症化リスクの高い人たちの生命を代償に得られたものなのではないかということを考えざるをえません。
弱い人間を実験材料と見なす。まさに731部隊の末裔そのものの思考で寒気すらします。

 クラスター発生者=症状がなかったり軽かったりする

わけです。これを恐れているからこそ、各国が希望者全員に検査をしていますし、健康であってもウイルスをまき散らす可能性があるからこそ「自粛」を呼びかけたのではないのですか。ホプキンス大の分析は現実と矛盾していると言わざるを得ません。

しかしながら、武漢の分析は
武漢の無症状感染、ウイルス出ず 全市民検査の3百人
2020/6/9 06:34 (JST)6/9 06:45 (JST)updated
 【北京共同】中国湖北省武漢市の衛生当局は8日、全市民約990万人に新型コロナウイルスの感染の有無を調べるPCR検査を実施して確認された300人の無症状感染者について、全員の検体からウイルスは分離されなかったと発表した。当局は、検体に含まれるウイルス量が非常に少なかったか、発症力を持たない可能性があるとの専門家の見解を紹介した。

 中国科学院武漢ウイルス研究所で、300人ののどやたんから採取した検体を用い、培養してウイルスを分離できるかどうか確かめた。さらに全員の使用済み歯ブラシ、コップ、マスク、タオルなどをぬぐって調べたが、陰性だったという。


シンガポール、新規感染者の半数は無症状=当局者
Reutersワールド2020年6月8日 / 19:07
シンガポール 8日 ロイター] - シンガポールのコロナウイルス問題特別作業班の共同委員長、ローレンス・ウォン氏は8日、国内の新規感染者の少なくとも半数は無症状と明らかにした。

ロイターの取材で語った。

過去数週間検査を拡充していることもあり、有症状・無症状の感染者の割合がほぼ同じであることが判明したという。

シンガポールはこれまで無症状感染者の数を明らかにしていない。

無症状感染者は咳などしないことから人に感染させる機会は少ないと考えられるが、密集した場所では感染例も報告されているという。

同氏は、無症状感染者の割合が分かったことで、政府の慎重な規制解除の重要性が確認されたとし、「より慎重なアプローチが必要だ。まだ見つかっていない無症状のケースがあると考えられる」と述べた。


34人院内感染の原因は“偽陰性”か 収束後初めて取材に応じた副院長「PCR検査を過信しすぎてはいけない」
2020.06.08 15:57
「救命センターのある当院では、疑似症患者を受け入れる時に入院が必要な場合には当然個室、1人部屋ということになるが、PCR検査をして陰性であった場合は、多少症状がよくなったという時点で個室の扱いをやめてしまって大部屋に移してしまう。個室を空けることによって、患者さんをまた受け入れなければいけない」

 患者が増加していく中、一般の診療所での受け入れが難しい状況で、小田原市立病院の負担は増していたという。そのため、当時はPCR検査で陰性が確認されれば、次の患者のために個室をなるべく早く空ける方針だったという。

 院内感染の原因として浮上したのが、個室から大部屋に移動した1人の患者だった。4月中旬、発熱と肺炎の症状がありPCR検査を受けたところ、結果は陰性。症状も改善され、6人の大部屋に移り(4日間)その後退院したが、自宅療養中に再び発熱し、再度PCR検査を受けた結果は陽性だった。その後、一緒の大部屋にいた患者5人の感染も確認されたのだ。

 「PCRが主な検査だったが、陽性率が6〜7割。裏を返すと、2割3割は陽性であってもそう出ない『偽陰性』として出てしまう」(同)

「PCR検査が陰性になった時に『ある程度大丈夫』といった判断するのをやめにして、陰性でも少なくとも4日間は個室から出さないで対策を継続する。それを解除する時も、主治医の判断だけではなく、チームとしてみんなの複数の目で判断して、相談して決めていくというような方針も取り入れている。やはりPCR検査に頼らざるを得ないところではあるが、過信しすぎてはいけない。総合的にレントゲンなり検査なりを含めての対応ということと、やはり怪しい時には(個室対応を)解除してはいけない」
最初読んだときは、「検体」の取り方が悪かったのだろうと考えましたが、これはむしろ

PCR陰性=コロナ肺炎ではなかった

大部屋で他の誰かから感染した

と考えるのが理にかなっているのではないかと思われます。つまり、6人部屋にいた人誰かがすでに感染しており、それがこの自宅退院した患者に潜伏期間を経て発症したと考えるのが自然です。つまり、最初の肺炎は、いわゆる普通の細菌性か、あるいは何らかのウイルス性肺炎で(海外ならば、ここで一般的なウイルスの確定診断をPCRを用いて行うため、診断がつく)それが軽快したあとで、コロナ肺炎にかかった。
 もし、この患者が最初のころな感染者と考えるのならば、前から病室にいた5人が陰性であることを確認しなければなりませんし、あるいは見舞客、そして医療従事者からの感染も否定する必要があります。最初のPCR陰性を「偽陰性」と決めつけるのは納得出来ません。

 もちろん、PCR陰性であったとしても症状を見るのは大事です。それは当たり前ですが、PCR検査が信用出来ないと結論づけるのは間違いです。

無症状のPCRがむだという一方で、日本はこんなことをやると決めてます。
NPBが12球団全選手へPCR検査実施へ コミッショナー「安全な開催に向け準備したい」
2020.06.08
 会議では、まずは開幕前に検査ができるよう努力し、月に1度の検査を定期的に行う方針を全球団一致で確認。検査は監督、コーチ、選手、スタッフら全員および審判員を対象としており、詳細については専門家チームに再度確認を行い、近く発表するという。


「夜の街」従業員に定期検査 小池氏と西村氏、方針確認
2020/6/7 19:24 (JST)
 東京都の小池百合子知事と政府の新型コロナウイルス対策を担当する西村康稔経済再生担当相は7日、新たな感染源として懸念されるホストクラブなどの「夜の街」対策を専門家らも交えて内閣府で協議し、店の従業員が定期的にPCR検査を受けられる態勢づくりや相談窓口の設置などで連携する方針を確認した。
 逆に夜の街に遊びに行った事実があれば、PCR検査をしてもらえるパスポートをもらったことになるんでしょうか。

2つの記事ともおかしいですよね。無症状の検査は不要ならば、こんな無駄な検査はやめるべきです。しかし、中国そのほか世界各国では全員検査を目指しており、さらに日本でも特に危険な場所は無症状でも検査をすると発表する。

 ホプキンス大の論文と、その他の事実 どちらを信用するか。それは、あなた自身が決めてください。

なぜ、日本のPCR検査は全く増えないのか。2020年06月03日

  
posted by いんちょう at 19:29| Comment(5) | Covid-19
この記事へのコメント
 国立感染研の濃厚接触者の定義変更等に関するQ&A(4月22日付)

 「発病した日」→「発病した日の2日前」

の部分の根拠は、WHOの「世界におけるCOVID-19サーベイランスに関する暫定ガイダンス(3月20日付)とされていますが、私の知る限りではもう少し早く、例のテドロス事務局長の "test, test, test" スピーチ(3月16日付)の中ですでに登場してます。

We have a simple message for all countries: test, test, test.

Test every suspected case.

If they test positive, isolate them and find out who they have been in close contact with up to 2 days before they developed symptoms, and test those people too.

https://www.who.int/dg/speeches/detail/who-director-general-s-opening-remarks-at-the-media-briefing-on-covid-19---16-march-2020
Posted by 宮田 将 at 2020年06月09日 20:42
先生が紹介されてゐた『冬の喝采』、その作者の黒木亮氏はロンドン在で、小池知事の学歴詐称等の疑惑を追及されてゐたのですね。昨日、外国特派員協会での郷原弁護士との共同インタビュー動画をみることができました。

https://www.youtube.com/watch?v=iwwcwcfH3Ac
<フルオープン【6/9 16時〜ライブ配信】日本外国特派員協会主催 『小池百合子東京都知事の学歴について』ー講演:黒木亮氏(作家)、郷原信郎氏(弁護士・元検事)オンライン記者ブリーフィング>
Posted by 渡邉 建 at 2020年06月10日 00:50
 階層ベイズ法による推定で、偽陰性が20〜100%もあると主張するなら、「PCR陽性者数」をそのまま「感染者数」として発表するのではなく、その偽陰性の確率変動も考慮した「推定感染者数」(PCR陽性者数より当然多くなる)も出すべきですよね。でも、それは絶対やらない。まさにダブルスタンダード。

 ※ 階層ベイズは、本来そんなふうに使われていると思います。下のリンクは、捕獲された野生動物の少ない頭数から、実際の生息頭数や自然増加率を類推した事例です。

 http://www.wmi-hyogo.jp/upload/database/DA00000481.pdf
Posted by 宮田 将 at 2020年06月10日 12:38
 階層ベイズモデルは、先生が紹介されたジョンズ・ホプキンズ大学の調査研究や、上で示しましたツキノワグマの生息頭数の推定法研究への適用においては、とくに悪意などはないと思いますが、下のリンクのような事例だと少し疑いたくなりますね。

 ※ BWR原子炉隔離時冷却系のデマンド故障の評価(著者のひとりに、北大の奈良林直教授)

 https://www.jstage.jst.go.jp/article/taesj/7/4/7_J07.041/_pdf/-char/en
Posted by 宮田 将 at 2020年06月10日 12:46
めげずに、いつも毅然と、正確な議論をされる植草一秀教授は喝破される:

「日本のコロナ対応は東アジア・諸国のなかで最悪であったことがデータ上裏付けられている。
最大の誤りはPCR検査を徹底して抑制=妨害してきたことだ。」

http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2020/06/post-9b7319.html
<倍暴政断固阻止しない既存野党の弱腰>
Posted by 渡邉 建 at 2020年06月11日 17:19
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