2011年06月25日

子供だましのシビアアクシデント対策

 国はお粗末なシビアアクシデント対策でお茶を濁して、玄海、川内、伊方原発を再稼働させるつもりのようです。

 まず、中学生か高校生が考えた(のでしょう−たぶん。保安院は福島で忙しいですから)保安院のシビアアクシデント対策をみてみます。

シビアアクシデントへの対応に関する措置の確認に係る審査基準
1.審査対象
「平成23年福島第一・第二原子力発電所事故を踏まえた他の発電所におけるシビアアクシデントへの対応に関する措置の実施について(指示)」(平成23年6月7日付け平成23・06・07原第2号)において示した下記の対策。
(1)中央制御室の作業環境の確保
(2)緊急時における発電所構内通信手段の確保
(3)高線量対応防護服等の資機材の確保及び放射線管理のための体制の整備
(4)水素爆発防止対策
(5)がれき撤去用の重機の配備


 あれだけの大災害を起こしておいて、このレベル。皆様には信じられないでしょうが、私は全く驚きません。保安院の知恵袋−東電−が、対策をまとめるどころではありませんから・・・

 個別にみていきましょう

(1)中央制御室の作業環境の確保
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 これで、中操運転員の内部被ばくは防げるでしょうね。

(2)緊急時における発電所構内通信手段の確保
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 本店との連絡は取れるでしょうよ。

(3)高線量対応防護服等の資機材の確保及び放射線管理のための体制の整備
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 高線量作業の被ばくは少しは減るかもしれません

(4)水素爆発防止対策
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 ほーー。この設備(手動ドリル)があれば、福島第一の水素爆発は防げたとの評価なのでしょうか?これは、世界に対する恥さらしです。中学生レベルと言ったとしても、現役中学生に失礼。

加圧水型は、ちょっとまとも。関電が関与できているからでしょう。


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いきなりガレキ撤去に来ますか。。

(5)がれき撤去用の重機の配備
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 もちろん、遠隔操作可能なように改造してあるんですよね?

 お粗末を通り越しています。

この対策をしていたら、福島第一の原子力災害を防げると思っているから、安全確認を出したのでしょうけれど、本気?

試験に間に合わずに一夜漬けで解答を作った小学生にしか私には見えませんが。


津波による冷却装置の喪失に対して、電話とドリルで対応できるのですか。なんか、戦艦に竹槍で突っ込んでいるのと変わらない。


 日本の原子力レベルはこんなものかとお嘆きの方に朗報(私もほっとしました)

日本原子力学会がまとめた対策案があります

福島第一原子力発電所事故からの教訓(概要版) (2011/5/9)・・保安院より一ヶ月前です。英文

2.津波に対する教訓
a. 耐震設計で考慮していた津波の規模が不十分であった
b. 海水の浸水により、安全上重要な機器が停止し、事故の拡大を防げなかった
c. 地下構造物の浸水防止が不十分であり復旧作業を妨げている

提言(短期)
(1) 安全上重要な機器の損傷を防ぐため、これらが配置されている建物に海水が入らないようにするなどの、ハードウエア対応


 そうでしょう、少なくともこれは必要

重要なのはその次

3.全電源喪失に対する教訓
a. 安全審査が不十分であった
b. 全電源が長期間喪失し、事象の進展が防げなかった
c. 原子炉内の状況把握が困難となった
d. 電源が一部でも残っていれば、事象の進展を食い止められる可能性がある
提言(短期)
(1) 電源車、小型発電機など多様な方法で電源を供給する
(2) 交流電源がすべて喪失した場合を想定し、重要な機器および炉心の監視系供給をへの電力行えるようにする
(3) 発電機を複数機設置する場合は、あらかじめケーブルを接続しておく


 子供だましの発電機、電源車でお茶を濁しているようです。原子炉建屋屋上においた発電機など、燃料補給どうするつもりなんでしょうか?シビアアクシデント時に人が補給するんですか?
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浜岡の対策

4.全冷却系喪失に対する教訓
a. 海水冷却は津波に対して脆弱性がある
b. 電源があれば炉心損傷までの時間的余裕が比較的ある
提言(短期)
(1) 消防車などを用いた冷却系への注水訓練の実施とハードウエア整備
提言(中期)
(2) 海水ポンプモータなどの予備品をあらかじめ、津波の影響を受けない場
所に準備しておく
(3) 海水ポンプに対する浸水防止対策例えば防水壁や専用、建屋の設置を行う
(4) 海水に頼らない冷却システムを準備し冗長性を担保する。例えば崩壊熱除去が可能な容量の空気冷却機などを設置しておく
(5) 動力の要らない自然循環冷却システムを考案する
(6) 水源を多様化しておく。(河川、ダム、防火用水など)。必要に応じて送電線をさらに多重化する


 ここがもっとも大事な対策です。冷却材喪失が起きるとどの原発でも福島レベルの事故に直結します。津波の惨状の中、復水炉心の海水ポンプ修理工事が間に合うと考えているとは、一体何人の人を用意しているのでしょうか?ポンプの予備品だけではなく、動力のいらない自然冷却システムがないとこの事故は防げません。
 しかし、この対策をするには多額の経費がかかります。そんな体力、電力会社に残っているの?

10.組織、危機管理に対する教訓
a. 責任体制が不十分であった
b. 停電や情報伝達の問題などにより緊急時の円滑な対応がうまくいかなかった
提言(短期)
(1) 専門性を持った責任者がすべての責任の統括する


 これは、未だに実行されていません。専門性を持った責任者(安全委員会は不適)に責任をすべて統括しないと、このままずるずると放射能何年も垂れ流しになるのは、目に見えています。

 このような学会の提言があるにもかかわらず、保安院は全く無視したまま安全宣言、運転再開を企てています。このようなペテンを見破ることが出来ないとは、信じたくないのですが・・・
 それとも、この期に及んでも、地元自治体、知事は、電力会社、国を「信用している」のですか?


4月に経産省は、次の指示を出しています。
1 経済産業大臣の指示の内容
津波により、【1】交流電源を供給する全ての設備の機能、【2】海水を使用して原子炉施設を冷却する全ての設備の機能、【3】使用済燃料貯蔵プールを冷却する全ての設備の機能が喪失した場合であっても、炉心損傷および使用済燃料の損傷を防止し、放射性物質の放出を抑制しつつ原子炉施設の冷却機能の回復を図るための緊急安全対策を講じること。

 浜岡の解答をみてみましたが、対応策は注水だけ。注水では対応できないのは福島で明らかです。代替の空冷式熱交換機など準備できているのでしょうか?(いうまでもありませんが、全くされていません)重要な教訓のまとめ
a. 耐震設計で考慮していた津波の規模が不十分であった
b. 海水の浸水により、安全上重要な機器が停止し、その結果、全交流電源喪失、全冷却系喪失となり、事故の拡大を防げなかった
c. 全電源が長期間喪失し、非常用冷却システムの稼動が十分ではなく、事象の進展が防げなかった。
d. 電源喪失により、原子炉内の状況把握が困難となった。
e. 海水冷却は津波に対して脆弱性があり、ヒートシンクが失われた
f. 全電源喪失を考慮したアクシデントマネジメント(AM)が不十分であった可能性がある
g. 格納容器外の水素爆発は考慮されていなかった
h. 建屋が破損した後の使用済み燃料の閉じ込めに課題がある
i. 外的事象に対する安全設計の考え方が不十分であった
j. 日本の安全規制の仕組みが不十分であった
k. 情報発信に多くの課題がある
l. アクシデントマネジメント(AM)対策が事故の大幅な悪化を防いだ。
m. 地震の揺れに対する従来の対策は、おおむね有効であった可能性が高いと推定される

重要な対策のまとめ
1. 津波対策として水密性強化など物理的な対策を行うこと
2. 多様な電源をあらかじめ準備しておくこと
3. 海水冷却だけではない、多様な冷却システムを検討し準備すること
4. シビアアクシデントが発生しうることを想定し、アクシデントマネジメント(AM)対策を十分に検討すること。また、AM対策として複数電源ラインなど必要なハードウエアを整備すること。さらに、AMに対する訓練や教育を実施すること
5. 水素爆発を起こさないAM対策や、使用済み燃料貯蔵プールに対するAM対策を検討し、必要な手当てをすること
6. シビアアクシデント研究を推進するとともに、人材育成につとめること
7. 安全規制のあり方について、法律改正、組織改正を含めて根本から見直すこと
8. 定量的リスク評価手法を確立し、リスクを全面的に規制に取込むこと
9. 緊急時の情報公開や情報共有について再評価すること
10. 事故が起こることを前提とした防災訓練を実施すること
11. 今回の地震・津波・事故に対して、耐震設計、配置設計、AM対応、プラント応答などを詳細に評価し、改善に資すること


 やや甘い認識もみられる気はいたしますが、おおむね正しいと思います。

 とくに10.の提言(SPEEDIを使った拡散予測とともに)が大事。

保安院、安全委員会の方、もう少し日本全体のことを考えてください。
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posted by いんちょう at 13:40| 原子力