2011年06月30日

循環冷却システム−うまく稼働したら奇跡

解説:東日本大震災 福島第1原発「循環注水冷却」 安定稼働、不透明
 ◇「冠水」こだわり遅れ
 東京電力福島第1原発で27日、汚染水浄化システムが本格稼働し、処理した汚染水を原子炉の冷却水に再利用する「循環注水冷却」が始まった。安定運転が続けば、原子炉の安全な状態である冷温停止の達成が視野に入る。しかし、稼働直後に汚染水を移水するホースで水漏れがあり、今後も問題なく稼働できるか不透明だ。

 現在、最大の課題の一つが汚染水だ。原子炉の冷却には水を注入しなければならないが、注入するほど汚染水が発生。汚染水は作業を妨げ、一部は海に漏れた。システムの安定稼働は「炉心の冷却」「汚染水の低減」の両立をにらんだ神経戦からの解放になる。

 だが、内閣府原子力安全委員会の班目(まだらめ)春樹委員長が27日の会見で「何もなく進むことはない。安全管理に努めてほしい」と語ったように、楽観できない。

 まず、11万立方メートルもの汚染水処理は前例がない。システムは全長4キロに及び、トラブルが懸念される場所は多い。処理に伴って年末までに発生する約2000立方メートルの高レベル放射性廃棄物汚泥(スラッジ)の保管方法のメドも立っていない。

 そもそも、循環注水冷却の実施は、政府と東電の「希望的観測」で遅れた。東電が4月に発表した最初の工程表には循環注水冷却ではなく、格納容器全体を水で満たして冷却する「冠水(水棺)」が収束の決め手として明記された。ところが、その後の分析で、格納容器に穴が開いていると判明。注水するほど汚染水が発生することが裏付けられた。メルトダウン(炉心溶融)や格納容器の損傷はないとしてきた政府と東電の対応が、初動対応を遅らせた。

 日本原子力学会のチームは、事故から約2週間後の3月28日に循環注水冷却を提言した。チーム代表の奈良林直・北海道大教授は「冠水にこだわり時間をロスした。データを分析すれば格納容器の損傷は当初から明らかだったはずだ」と話す。【中西拓司、岡田英】
毎日新聞 2011年6月28日 東京朝刊


 これはある程度の方がご覧になったことでしょう。原子力学会のチームに事故の収束を任せるしかないと私は思っています。以前ご紹介したとおり、このチームの分析*1はしっかりしています。

さて、東京電力の資料から

2011年6月27日水処理装置・循環注水冷却の概略資料(201KB)
2011063003.jpg

なれていないと何が何だか分からないかもしれませんが、これは簡単です。
2011063004.jpgこれが閉状態のバルブ
2011063005.jpgそして、これが開状態のバルブ
2011063006.jpg両側を開状態の弁で含まれたポンプ

だけです。わかりやすいように水が流れるルートが色塗りしてあります。

図面が読めたとしても、何が何だか実際のところ分かりませんが。。

全体のルート
2011063007.jpg

2011063008.jpg

一応のところ発電所内に入っていますので、長さを忘れてしまいそうですが、以前も書きましたように発電所の敷地は一般の人が考えられないくらい莫大。この配管の距離は、最初の記事に書いていますとおり、約4キロメートル。
 徒歩にしますと大体40分程度になるでしょうか。

皆様がお住まいの場所から、片道20分の距離を想像してみてください。その大きさがよくおわかりでしょう。こんなに長い配管を水漏れなしで運転するなんて、人間には無理。(といっていいはずです)

配管をただ目視して見回るだけで、おそらく1時間程度かかるはずです。

また、この浄化設備に熱交換機が一切ありません。今はいいのですが、順調に流れ出した場合、一体どこで熱を除去するつもりなのでしょうか。

 さらにおおきな問題点があります。この巨大な循環冷却システムをどれくらいの期間動かせばよいのかです。原子炉の冷却には10-20年単位の時間がかかります。その間中ずっと、このシステムを動作できるとは、とても思えません。
 しかも、メルトスルーしてしまった核燃料が格納容器の中にある(中にあればいいですが)のです。

 手厳しい言い方になりますが、これがうまくいったとしても、3月下旬の電源復帰のニュースと同じように実際の廃炉に向かうステップとしてはなにも進んでいないのに等しいのです。

・循環冷却がまともに動いたとして、その次は??


関連ブログ(今後出来るだけ参照を入れるようにします)
*1
子供だましのシビアアクシデント対策2011.6.25(原子力学会の実力−安全の提言)

福島の思い出(2)・福島第一での初期研修2011.4.16(広大さの説明)
全体のスケジュールは?(1F事故復旧工程)2011.3.19 (全く見通しなし)
福島第一原発の見通し(電源復旧以外は・・)2011.3.24(おそらく、この時の発表と同じ重要度)
1号機メルトダウン−私的収拾案・おすすめ2011.5.14(かなり厳しい状況)
原発の工程表-見直しされず・・2011.5.19

 以上の状況と全く変わっていないと思いますので、アップが遅れました。

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posted by いんちょう at 20:33| 原子力