2011年07月21日

発電コストの厚いベールを剥がす−原発=安価は洗脳だった・・

 社内にいるときに、発電コストの一覧表を見たことがあります。まあ、そのぺーバーはみただけですし、証拠にもなりません。冷静に、公開されている資料を基に計算してみましょう。

電力の公開している資料は、燃料費に変な条件がついていたり、稼働率で原子力に有利なハンディをつけたりしますので、全く参考になりません。騙されないように、kWhr 単価で議論を進めます。

発電コスト = 燃料費 + 発電所建築費 + 維持管理費 + 廃棄費用

であることはいいでしょうか。
これらのおのおのについて、火力・原子力について、比較してみましょう

燃料費(かなり疑問が残りますが) => 原子力 < 火力

発電所建設費 => 原子力 >> 火力

維持管理費用 => 原子力 >> 火力 (放射線管理費用、放射性廃棄物費用が含まれます)

廃棄費用 => 原子力 >> 火力 (原子力発電所の廃棄費用は、まだ見積もりすら出来ていません。一方、火力発電所の設備は、最低でもくず鉄として利用できるでしょう)


 つまり、 原子力発電所のコストの方が 火力発電所より 安くなる項目は、燃料費の差額だけです。・・・・ここも、皆様納得いただけるでしょう。

火力発電所の燃料費は、いったいどれだけか。

日本の全原発を石油火力発電所に置き換えると燃料費は年5兆円増 - 白谷のノート(3冊目)
 (前略)ところで、東京電力の資料「数表でみる東京電力」を見ると、出力100万kWの発電所を動かすには年140万キロリットルの重油が必要らしい。1万kWあたり1400万リットル(=1.4万キロリットル)だ。一方、電気事業連合会サイトの「電力統計情報」ページによれば、2009年度における原発の最大出力は日本全体で4623万kWとなっている。
 仮に、日本のすべての原発を、石油火力発電所で置き換えるとしよう。すると、4623×1400万リットル≒647億リットルの重油が必要になる。石油情報センターの「価格情報」ページによると、2011年2月時点での重油価格は1リットル77円。つまり、原発を石油火力発電所で置き換えた場合、年に647億リットル×77円≒4兆9800億円の燃料費が必要なのだ。


 この記事のすばらしいのは、嘘をなにも書いていないこと。(詐欺師の常套手段です)ほとんどの人が騙されるでしょう。

・燃料費に税金(石油諸税)が含まれているため、発電コストが高くなる石油火力で全体をまとめていること
・原発を利用しないことで必要なくなってしまう原発燃料の初期費用、使用済燃料費用が全く入っていないこと。

その他にも、いろいろとごまかしの手段がつかってありますが、ここではそれをあげつらっても意味がありません。この文章で紹介されている「数表でみる東京電力」をつかって、本当の発電コストを計算します。(この資料は、非常に良くまとまっています。ただし、おもしろくはありません。)

どこにも正式に公開されていないのが、原子力発電の燃料コスト。
モデル試算による各電源の発電コスト比較から
2011072202.jpg
1.67円/kWh (こんなに安いはずはないのですが)

廃炉、およびバックエンド費用として、ここのページから、電事連 廃炉費用 2.0円/kWh

すなわち、原発を稼働させることで 3.7円/kWh のコストがかかる(燃料、廃炉費用のみ)

では、火力発電所はどうか。これは、得意?な積算方式をとります。

1kWh = 1 kJ/s x 60s x 60min = 3600kJ

各発電所の効率は、

石油火力 0.4 (本当はもっと良い)
石炭火力 0.4 (本当はもっと良い)
LNG火力 0.58 (最新鋭)

まとめますと、1kWhを発電するのに

石油/石炭火力 3600kJ ÷ 0.4 = 9000kJ
LNG火力 3600kJ ÷ 0.58 =6200kJ

の熱量が必要ということです。

では、上記にあげた東電資料から、一体どれだけの燃料が必要かを計算します
2011072204.jpg
石油(原油)

9000kJ ÷ 39340kJ/l = 0.228 (リットル)/kWh

同じく石炭

9000kJ ÷ 26890kJ/kg = 0.33kg/kWh

LNG(これは複雑なので、少し面倒)
LNGの取引単位には、百万Btu(英国熱量単位)と 1000m3単位があります。いずれについても(価格の入手しやすさによります)
1Btu = 1055.0558J
ですので、

6200kJ ÷ 1055.0558 = 5876 Btu/kWh

この換算ホームページから、
百万Btu = 0.02665 ( 1000m3) ですから、
5876 Btu = 0.156 m3

さて、全て出そろいました。いついかなる時でも、この換算値を使えば火力発電の本当の燃料費を簡単に計算できます。

原油価格は、東京工業品取引所の期近価格 55,400円/kl
石炭価格は こちらから 127.8$/ton x 80yen/$ ÷ 1000 = 10.2円/kg
LNG価格は こちらから 303.19 $/1000m3 x 80yen/$ ÷ 1000= 24円/m3

わかりにくいので、表にまとめて発電単価を示します

2011072205.jpg

 今まとめてみて、私も驚きました。原子力発電は、原油火力に比べて安いだけ。石炭にも劣り、まともに計算(廃炉費用など、話しにならない見積もり金額です)するとLNGにもあきらかに劣ります。しかも、この価格はもっとも最近の価格であって、原油などが暴騰する前ではこの半額程度の時もあります。最初から、原子力はコストが高かったのは明らかです。(どなたか、一次産品の価格の推移と発電コストの推移を長期的に示していただけると幸いです)

すなわち、原子力を止めても、燃料費の増大などは起きないのです。(1年目は別です。核燃料を購入していますので、核燃料購入費を相殺できなくなります)

 さらに、膨大な建設コストを考えますと、原発を進めるのは、「コストが高いから」以外にはありません。

(追記)
 100万歩以上譲って、燃料費を
LNG = 4円/kwh
原子力 = 2円/kwh
としてみましょう。このブログから、各発電所の建設費を
柏崎刈羽原発 31.0万円/kW
川崎LNG火力  6.0万円/kW
この差額を埋めるのに必要な発電電力量は、

(31.0 - 6.0)万円/kW ÷ (4 - 2)円/kWh = 12.5万時間

つまり、

125000 ÷ 24時間 ÷ 365 = 約 14年

かかります。(定期検査費、放射性廃棄物費など一切かからないとして)
つまり、原子力が安いと思い込まされていたのは、非常に大がかりな洗脳だったのです。現場の方が、洗脳に引っかからないのは、まあ当たり前と言えば、当たり前・・・

 これら、一次産品の価格については、私も素人です。もっと詳しい方などあられましたら、どちらかに投稿していただけますと、幸いです。下記、キーをつけていただければ、検索してこのページを訂正させていただきます。

 いつもこのブログを読んでおられた方は、数字に食傷気味かもしれません。しかし、原発のコスト・リスクについて全く聞く耳を持っていない理系のご主人をお持ちの方は、是非このブログを見てもらってください。理系の方であれば、全員納得されるはずです。

 なぜ、こんな簡単な発電コスト計算を今までやらずに、電力の言い値をそのまま信じていたのでしょうか。不思議でなりません。

キー 3AxhtyFc

■関連ブログ
原子力は高いから推進−総括原価方式の罠2011.7.20
福島の思い出(14)・・原子力って安いんですか?2011.7.14
原発代替火力建設に10兆円という脅し2011.6.24
火力燃料費2兆円−核燃料・再処理のコストを示せ。2011.6.11
原発のコストを文系的に考える2011.6.4
原発のコスト計算に重要なヒント(新聞記事から)2011.6.1
タグ:O
posted by いんちょう at 06:06| 原子力