2011年08月08日

原子力発電入門(3)原子力−莫大なエネルギーの見返りは放射能

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原子力は、お湯を沸かす最悪の方法。 アインシュタイン

どういうことでしょうか。まず原子力の核分裂についてみていきましょう。

原子力があるまでに我々が持っていたエネルギーは、すべて電子のやりとりでした。例えば、炭(スミ)などが燃える場合は、炭素が二酸化炭素になり、水素が燃えるときは、水となります。

C + O2 -> CO2 + 熱エネルギー
H2 + 1/2 O2 -> H2O +熱エネルギー

この変化では炭素、酸素、水素は形状・性質を変えるだけで酸素は酸素でありつづけます。

物質は、分解すると元素(例えば、炭素、水素など)となり

元素 = 原子核(Atom) + 電子(electron)

で構成されており、

原子核= 陽子(proton) + 中性子(Neutoron)

となります。


(ちょっと補足−−Advanced)・・余力のある人向け
H−水素   陽子1個 + 電子1個 (原子番号 1、 質量数 1)
He-ヘリウム 陽子2個 + 電子2個 (原子番号 2、質量数 2)
C-炭素   陽子6個+中性子6個+電子6個 (原子番号 6, 質量数 12)
です。
原子番号 = 陽子の数
質量数 = 陽子の数+中性子の数
元素記号の左下に原子番号、左上に質量数を書きます。
2011080808.jpg
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元素は原子番号で一つに決まりますが、質量数は変わります。一般に中性子と陽子の数が同じであれば、安定すると言われています。
 たとえば水素、重水素(1+1)は安定的ですが、三重水素(トリチウム)は不安定なので、放射能を持ちます。(半減期12年)
 C12は陽子と中性子が6個ずつなので安定していますが、C14は6+8となるので、不安定であり、放射能を持つ(半減期 5730年)ことになります。


原子力は、原子核そのものが分裂することによってエネルギーを得ます。

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原子核に中性子がぶつかることによって、不安定になり2つに分裂(核分裂生成物−娘核種daughter nuclear)するとともに、中性子を放出します。

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どのように2つに分かれるかは、上図にしめすようにばらばらです。そのため、放射性物質として、セシウム、ストロンチウム、ヨウ素など様々な名前が飛び交うわけです。

参考(原子周期表)
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核分裂反応が連続して起こることを核分裂の連鎖反応(chain reaction)と呼びます。
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この連鎖反応により、熱を発生させ、お湯を沸かすわけです。連鎖反応を一瞬に起こさせると、原爆となります。原爆も原発も原理は全く同じなのです。

さて、次のスライドが原子力の最も重要な問題点です。
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優位な点− E=mc2 (アインシュタインの相対性理論による) で表される膨大なエネルギーをほんのわずかな量で得ることができる。

不利な点
(1)放射能を持つ核分裂生成物(娘核種−daughter nuclear)が5−10年と熱を持つ
(2)放射能を持つ娘核種は、数世紀にもわたり放射能を持ち続ける。

(1)は、核分裂を止めたとしても、数年間の単位で崩壊熱を出し続けるわけで、福島も同じです。人間は、この崩壊熱を止める手段を持ちあわせていません。(核分裂の数パーセントですが、決して無視できないのは、すでにご存じの通り。)
(2)放射性廃棄物は、ほとんど永遠の管理を必要とします。最も長いPu239で半減期が2万4000年。今現在ある使用済燃料に人類が近づけるようになるには、10万年かかるともいわれています。

 核分裂反応に伴う核分裂生成物が強烈な放射能を持ち、その管理にほぼ永遠の時間が必要というのが、原発の最大の問題点です。なぜ、このような物質を作ってまで、発電しようとするのか合理的な説明は、されていません。推進派得意のカネを持ってしても、解決することは不可能なのです。

 今日は、難しかったですね。(私も間違えているかもしれません)

・原子力は、エネルギー発生の見返りとして、人間の手に負えない放射能を大量に生成する

とまとめましょうか。

■原発入門シリーズ
  1. 原子力発電入門(1)発電方法
  2. 原子力発電入門(2)もっとも効率が悪い発電方式
  3. 原子力発電入門(3)原子力−莫大なエネルギーの見返りは放射能
  4. 原子力発電入門(4)ウラン燃料精錬−いったいどこがエコ?
  5. 原子力発電入門(5)なぜ、海に面しているのか?
  6. 原子力発電入門(6)放射能と放射線
  7. 原子力発電入門(7)原子力は急には止まれない。
  8. 原子力発電入門(8)−核分裂生成物の半減期と病気
  9. 原子力発電入門(9)−プルトニウム・・神話を超える管理
  10. 原子力発電入門(10)まとめ−絶対安全な原発は無理 
タグ:原発入門
posted by いんちょう at 21:25| Comment(3) | 原子力
この記事へのコメント
>なぜ、このような物質を作ってまで、発電しようとするのか合理的な説明は、されていません。

非核兵器保有国においては、NPT体制下で核武装オプションを保持するため。
U235濃縮技術とPU239再処理・分離技術へのアクセス保持。
Posted by 大人の事情 at 2011年08月09日 12:22
今までどの説明を聞いても地に足つかないようなかんじで分かりにくかったけれど、基本の基本から書いてあって分かりやすいです。中でも、どんなふうにしてエネルギーを得るのかいまいちしっくりこなかったのですが、原子核そのものが分裂することによって得る、というのでやっと納得できました。原子については高校の化学で一年ほど前に勉強したもので・・・
これからも参考にさせていただきます。ありがとうございます。
Posted by Liiy at 2014年07月19日 22:40
Liiyさま

こんばんは。
お若いかたがこちらのブログからご自分たちの回りで進行している事態について学びを得られていかれると知り、本当に本当にありがたく思います。いまの隠蔽を重ねる社会のありようをなんとか打破したいと願うものの、自分一人のことで精いっぱいでなにもできず、次の世代を生きるみなさまにほんとうに申し訳ない思いでおります。

わたしはいわゆる文系脳の化学オンチでしたが、環境問題にであってからこどもの物理・化学の教科書を愛読書にするようにして身の回りの物質の挙動などを理解し身を守るための糧とすることができました。

いまこの国で進行していることの現実についてどうか理解を進められ、ご自分や大切な方を守ってください。わたし自身はあなたと違い愚かな若者でした。勇気がすべてを解決できると思っていました。
あのころ事故が起きていたら、自分は放射能になんか負けないし困っている人のところに無防備なまま出かけ、汚染されたものを安全な地域に無自覚に持ち込み、周囲にも汚染されたものを進めてしまっていたことでしょう。

残念ながら、今回の放射能拡散事態はそのような甘い対応がいかに被害をさらに広げるものかということを3年余りの間に明らかにするものでした。

どちらにお住まいであっても、現状の厳しさを知り、身を守る方法を学ばれどうかご自分を大切に生きてくださいね。そしてあなたのような現実を直視して学び発言できる方たちが賢明な未来を選び取ってくださることが、わたしのようなものの祈りです。どうか、たくさん学んでください。たくさん知ってください。たくさん生きてください。ほんとうにありがとう。
Posted by マツダマツコ at 2014年07月20日 02:10
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