2011年08月31日

白血病入門(5)治療その2−化学療法と骨髄移植他

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(しばらく同文をブログの最初に記述します)

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これが、標準的な治療プロトコルです。(と思います)
3日間2種類の抗がん剤を使用し、全体で7日間。

どうでしょう。自分が思っていた治療より、強いですか?弱いですか?

が、本番はこのあとから始まります。(抗がん剤治療の最中は、それほど重篤な副作用が起きることはあんまりありません)
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特に困るのが、食欲不振です。静脈からいくら点滴を入れても、身体に元気がつきません。なんとしてでも口から食事を取っていただきたいのですが、どうしても食事をする気にならず、なにも食べられなくなってしまうことが非常に良くあります。
・食欲不振
・体重減少
・抵抗力低下
・日和見感染症で重篤な状態

そして、脱毛

どんなにふっくらされていた方でも、髪が抜け、やせ細り、まるで別人のようになってしまわれます。主治医にとってもつらいことです。

血液検査をほぼ毎日して、ひつようならば、赤血球(MAP、今はRCC)、血小板の輸血。そして、出血傾向(DIC)が起きてないかを確認。無菌室には入っておられますが、やはり感染(肺炎、膀胱炎etc)はほぼ100%起きます。そしてその治療と、本当に気が抜けません。


前回も述べましたとおり、寛解療法で白血病細胞が5%以下になった場合にのみ、次の骨髄移植に進めます。 現在でも兄弟間移植が多い(適合確率は1/4)と思います。

この骨髄移植は白血球の型が問題となり、血液型は調べません。それゆえ、骨髄移植のあとには、血液型が変わってしまうこともあります。他人の骨髄を入れますと、当然のこととして免疫反応が起こりますが、それが起きた方が白血病細胞を根絶やしにできるので予後がよいのです。(骨髄移植後はドナーリンパ球による免疫反応で白血病細胞を殺す効果も期待できます。移植片対白血病効果(Graft-versus-Leukemia Effect:GVL効果)と呼ばれます。)−自分の骨髄を使用しますと、このような効果は全く期待できません。(一方で、副作用も起こりません)
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前回も述べましたとおり、寛解療法で白血病細胞が5%以下になった場合にのみ、次の骨髄移植に進めます。 現在でも兄弟間移植が多い(適合確率は1/4)と思います
 先日報道がありました 福島原発作業員が白血病で死亡 のように、白血病とわかって入院してからの期間がほとんどないような場合、寛解療法が終わっているはずもありません。仮に事前に骨髄採取を行っていたとしても、予後には全く関係なかったと思われます。

 骨髄移植は、ピノコが助かったような夢の治療ではなく、苦しい化学療法を切り抜け、適合する骨髄があった人だけが受けられる治療なのです。また、この骨髄移植による治療の副作用は激しく、体力がある方でないと挑戦することすらできません。(治療中に死亡する可能性が高い)私の手元にある教科書には、せいぜい50歳までと書かれていますが、いまでは60〜70代くらいまで行うのでしょうか(通常の骨髄移植は55歳までですが、今は、移植前処置の抗癌剤の量を減らして行うミニ移植(骨髄非破壊的移植:Reduced Intensity Stem Cell Transplantation:RIST)も行われています。ミニ移植であれば70歳まで可能です。)

 あと、特殊な白血病として、
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急性前骨髄球白血病があります。このタイプの白血病は、従来非常に治療に難渋していました。もっとも予後が悪いとまで言われていたようです。
 それが、1988年に上海第二内科大学の黄教授がATRA(Alltrans retinoic acid)を用いた分化誘導療法を発表。(ビタミンAの一種)当時の中国の医学レベルが低く見られていたので「眉唾物」の扱いでした。何しろ、治療に難渋してどうしようもならないとされた病気がビタミンAの内服で治ると言われても、信用しろという方が無理です。
 今では、この治療法が第一選択となっています。白血病の特殊な病態は、ビタミンAを経口摂取することで治療可能となりました。(本当にごく一部です)

M3(急性前骨髄性白血病)の骨髄像
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■関連ブログ
作業員が急性白血病で死亡=収束工事「因果関係なし」−東電・福島原発2011.8.30

■白血病入門
白血病入門(1)熊大の研修医時代
白血病入門(2)初期症状と血液データの読み方
白血病入門(3)白血病の種類と原因
白血病入門(4)治療その1−化学療法−骨髄移植の前準備
タグ:白血病
posted by いんちょう at 22:31| Comment(4) | 日記
この記事へのコメント
種類にもよると思いますが、私はたぶん白血病になっても化学療法は受けないと思います…白血病の闘病はほんと、辛そうですもの…
治療費も高額ですし治療のはずなのにどんどん悪化してしまうなんて…今はそれしか方法がないのは分かっていますが、完全寛解してもなお治療を受けなければならないなんて、これに耐えられる方は本当、強靭な精神の持ち主なのだと思います。その家族も友人も、想像を絶する辛さだと思います…(;д;)

血液の工場を破壊せず、自然に骨髄が回復することはないのでしょうか?
病態を悪化させる方向でしか治らないのならいっそのことその場その場での対処療法や血小板などの輸血で取り繕って自然に回復するのを待った方がいいんじゃないかと思ったりもします。
抗ガン剤の副作用でご飯が食べれなくなって衰弱してしまうことも多いけれど、上記の対処療法でも倦怠感、発熱を繰り返して、結果、衰弱してしまうのですかね…
早く特効薬が発明されれば良いのですが…
Posted by   at 2011年09月01日 00:51
通常の骨髄移植は55歳までですが、今は、移植前処置の抗癌剤の量を減らして行うミニ移植(骨髄非破壊的移植:Reduced Intensity Stem Cell Transplantation:RIST)も行われています。ミニ移植であれば70歳まで可能です。
骨髄移植後はドナーリンパ球による免疫反応で白血病細胞を殺す効果も期待できます。移植片対白血病効果(Graft-versus-Leukemia Effect:GVL効果)と呼ばれます。
また、赤血球輸血は今はMAP液を使わないのでRCCと呼ばれます。
Posted by 血液内科 同期K at 2011年09月01日 13:02
私は白血病の経験者なので、少しコメントを。
1・血液の工場を破壊せず、自然に骨髄が回復することはないのでしょうか?
私見では現在の医療では無理、血液は全身をまわっています、1つ1つのガン細胞だけを狙い撃ちすることはできないと思います。
2.造血幹細胞移植(特に骨髄・臍帯血)は予後の悪いタイプ(リンパ性など)・再発したとき・兄弟間でHLA(白血球の型)が一致したとき)、まずは抗がん剤で様子を見る、高齢や体力や状態を見て治療が変わってくると思います。
Posted by 小山和喜 at 2011年09月04日 20:05
僕はAPLの経験者です。
27歳で発病し寛解してから凡そ8年経過してます。
治療中は本当につらかった…
再就職も出来ず、面接した会社の面接官から、病気は可哀想だがハッキリいうとあなたは社会に必要とされて無い人間だと云われ
出家し僧侶として今頑張っています。

ただ、残念な事は住んでいる町が原発から100圏内の仙台市です。
僕は苦労して子供も得、親も妻と一生懸命介護し、仕事も苦労して何とか就職し、それでいてこんな事故にさらされ離れたくとも離れられません。

正直、2度も3度もつらい思いをしたくないです。
何よりあのつらい思いと絶望に近い毎日を、何も悪い事をしていない多くの人が経験して欲しくもありません。
何も出来ないです。


何とか福島の事故を一刻も早く、垂れ流しせず収束して欲しい。
そう願って毎日祈っています。

Posted by 阿部哲郎 at 2012年02月18日 23:55
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