2011年09月02日

白血病入門(6)まとめ−予後因子と典型症例〜医師国試から

初めてこられて右も左も分からない方は、目次から
なにか知りたいことがあるならば右側の検索ボックスからどうぞ。(複合検索は不可)

 さて、このシリーズも6回め(最終)となりました。今回は今までの講義をまとめるとともに、予後因子、教科書的症例をご紹介します。

肥田 白血病はまだでない。3年以降で、白血病はピークが5年、がんが7年だった。これは必ずピークは出る。医師は知っておいた方がいい。(これは5月の話)

初期症状
・貧血
・感染に伴う発熱
・出血傾向
・歯茎からの出血が止まらない
・歯肉腫脹
など

血液検査では、白血球、赤血球、血小板の3系統が同時に低下することが多い。
早期発見には、血液像の検査が有効

(白血病の種類)
急性骨髄性白血病・・・50歳以上の成人に多い
急性リンパ性白血病・・10歳未満、とくに幼児(2〜4歳)に多い。
これから更に細分化される。

(発症のメカニズム)
 腫瘍性の変化を起こすには、細胞の遺伝子のうち増殖、分化を司る遺伝子が複数個(3〜4)損傷される必要がある。さらに、免疫力によっても左右される。例えば、T-cell(リンパ球)が損傷されている場合には数週間。増殖能力の落ちた高齢者では、半年程度になることもある。20〜50代であれば細胞分裂も盛んであり、通常は2〜3ヶ月程度と考えて良いのではないか。

(治療)
・大量化学療法のみ。なにも治療をしなければ、数ヶ月で死に至る。(一刻の猶予もない)
・骨髄移植は、最初の化学療法で抗がん剤の効果が見られた若年(55歳くらいまで)が対象となる。ミニ移植ならば、70歳くらいまで可能。
・化学療法で一番きついのは、副作用。
・まれに、ビタミンAの内服で治る白血病もある。

さて、予後因子

成人白血病
  1. 年齢が高い
  2. 二次性白血病(治療関連白血病)
  3. MDS(骨髄異形成症候群)より移行した白血病
  4. FAB分類 M0, M4, M5, M6, M7
  5. 末梢血の白血球数が多い
  6. ALL(急性リンパ性白血病)の中でL3, Ph1(フィラデルフィア染色体)陽性ALL
  7. 中枢神経系の浸潤がある
小児急性白血病
  1. 年齢(1歳以下、10歳以上)
  2. FAB 分類 L2, 3
  3. 非リンパ球性
  4. WBC 2万以上
  5. Ph1染色体陽性

以上は説明はしていませんが、もし万が一の場合には参考になるかと思い、記述させていただきました。

 最後に、医師国家試験から 急性白血病の臨床症例を紹介します。(これは、だれからも文句のつけられない立派な症例です−こんな教科書的症例にあうことはまれでもありますが)

83E4
19歳の男性38℃の発熱で来院した。眼瞼結膜は貧血状であるが黄疸はない。四肢の皮下出血と口腔粘膜下の出血とを認める。頸部リンパ節腫脹はない。心・肺・腹部に異常所見はみられない。赤血球205万,Hb6.9g/dl,Ht20%,網赤血球5‰,白血球900(好中性桿状核球6%,好中性分葉核球30%,リンパ球62%,前骨髄球2%),血小板7万。骨髄穿刺所見:有核細胞数20万,G/E比9.5。ペルオキシダーゼ染色陽性を示す異常細胞を多数認める。この異常細胞の出現している塗抹May-Giemsa染色標本を別に示す。
診断はどれか。
a 急性骨髄性白血病
b 急性前骨髄球性白血病
c 急性単球性白血病
d 急性リンパ性白血病
e 赤白血病

2011090208.jpg
解答 b
白血球が極端に減少しているところを見てください。こういう白血病もあります。このタイプは、ビタミンAが効果があるタイプですが、治療が少しでも遅れると不幸な結果となります。。

80D25
52歳の男性。38℃の発熱と関節痛とを主訴として来院した。両側頸部に小指頭大のリンパ節を数個ずつ認め,肋骨弓下に肝1cm,脾1cmを触れる。赤血球215万,Hb7.5g/dl,Ht22%,網赤血球2‰,血小板3.1万白血球は2.1万で,大部分は芽球である。それら芽球はAuer小体陰性,ペルオキシダーゼ反応陰性,エステラーゼ反応陰性である。骨髄血塗抹May-Giemsa染色標本を別に示す。
診断はどれか。
a 急性骨髄性白血病
b 急性骨髄単球性白血病
c 急性単球性白血病
d 急性リンパ性白血病
e 赤白血病

2011090403.jpg
解答 d

75C21
65歳の男性。2週前から全身倦怠と熱感があり来院した。体温38.5℃。両側頸部に母指頭大までのリンパ節を数個ずつ触れ,右季肋下に肝を2cm,左季肋下に脾を4cm触知する。赤血球300万,血小板5万,白血球75000,末梢血塗抹Wright-Giemsa染色標本を別に示す。 
考えられるのはどれか。
(1) 伝染性単核細胞増加症
(2) 慢性リンパ性白血病
(3) 慢性骨髄性白血病(急性転化)
(4) 急性リンパ性白血病
(5) 急性骨髄性白血病

a (1),(2),(3)   b (1),(2),(5)   c (1),(4),(5)
d (2),(3),(4)   e (3),(4),(5)
2011090210.jpg
解答 e
血小板減少+貧血+白血球増加の3系統異常です。白血球が75,000あって、ぶったまげない医師はいません(以前の解説間違ってました。恥ずかしい。)末梢血中に芽球が含まれています。これだけで白血病です。現在では、赤血球数よりもヘモグロビン(Hb)で貧血を判断することが多い。

70C18
23歳の男性。今年の6月より難聴,7月より紫斑が出現した。8月受診時,右季肋部に肝を2cm,左右頸部に小指頭大までのリンパ節を数個触知した。脾腫は認めなかった。血液所見:赤血球265万,Hb 8.7g/dl白血球27000(好中球3%,リンパ球20%,単球1%,骨髄にみられたのと同じ幼若細胞70%,前骨髄球3%,骨髄球2%,後骨髄球1%),血小板2.3万
検査では幼若細胞(写真)を76%に認めた。
診断はどれか。
a 急性骨髄性白血病
b 急性リンパ性白血病
c 慢性骨髄性白血病
d 類白血病反応
e 形質細胞白血病

2011090211.jpg
解答 a

92F24
12歳の女児。1週前から元気がなく,昨夜,鼻出血があり止血しにくかったため来院した。今朝から発熱が認められた。体温38.3℃。四肢と体幹とに出血斑を認める。眼瞼結膜は貧血状である。両側頸部に径1.0cmほどのリンパ節を数個触れるが,圧痛はない。肝を右肋骨弓下に2cm,脾を左肋骨弓下に3cm触知する。血液所見:赤血球340万,Hb 9.8g/dl白血球112000,血小板4万。血清生化学所見:GOT 36単位(基準40以下),GPT 26単位(基準35以下),LDH 1200単位(基準176〜353)。骨髄血塗抹May-Giemsa染色標本を別に示す。
この患児の予後不良因子はどれか。
(1) 年 齢
(2) 性
(3) リンパ節腫大
(4) ヘモグロビン値
(5) 白血球数

a (1),(2)  b (1),(5)  c (2),(3)  d (3),(4)  e (4),(5)
解答 b

急性リンパ性白血病の予後不良因子・・・年齢と白血球数
(疾患を正確に把握し、その疾患の予後因子を選ぶのでかなり難問)

89C1〜89C3
次の文を読み,1〜3の問いに答えよ。
6歳2か月の男児。発熱を主訴として来院した。
現病歴:1週前から元気がなく,時々38℃の発熱が現れるようになった。
発育歴・既往歴:妊娠経過は異常なく,40週に自然分娩で出生した。出生体重2960g。Apgarスコア4点(1分),8点(5分)。日齢3から光線療法を24時間受けた。新生児期から特異な顔貌があり,生後1か月頃に精密検査を受けた。1歳時の身長74cm,体重9kg。首の坐り4か月,つかまり立ち13か月,独り歩き23か月。まだボタンをうまく掛けられず,独りで靴を履けない。まねをして丸は書くが,四角は書けない。
家族歴:父42歳,母41歳。両親と4歳の妹とに特記すべき疾患はない。
現 症:身長106cm,体重18kg。体温38.0℃。脈拍100/分,整。血圧110/54 mmHg。皮膚に発疹は認めない。眼瞼結膜は貧血状で,眼球結膜に黄疸はない。右側頸部に径約1.5cmのリンパ節を2個触知するが,圧痛はない。胸骨左縁第4肋間にLevine2/6度の柔らかい収縮期雑音を聴取する。呼吸音は正常。肝を右肋骨弓下に2cm,脾を左肋骨弓下に触知する。深部腱反射は正常である。第5指が短い。咽頭に発赤はない。顔の写真(A)を別に示す。
検査所見:赤血球303万,Hb 8.7g/dl,Ht 26%,白血球4600(好中性桿状核球1%,好中性分葉核球8%,単球6%,リンパ球63%,異常細胞22%),血小板8万。血清生化学所見:総蛋白7.0g/dl,アルブミン3.7g/dl,総ビリルビン0.5mg/dl,GOT 29単位(正常40以下),GPT 15単位(正常35以下),LDH 820単位(正常176〜353),Fe 55μg/dl(正常80〜120),TIBC 320μg/dl(正常240〜310)。CRP 6.1mg/dl(正常0.3以下),リウマトイド因子陰性。

2011090212.jpg

89C-1 この患児について正しいのはどれか。2つ選べ。
a 新生児仮死があった。
b 発達指数は約70である。
c 1歳時のKaup指数は低値であった。
d 新生児高ビリルビン血症があった。
89C-2 この患児で予想される末梢血リンパ球の染色体核型はどれか。
a 46,XY,5 p−
b 47,XY,+13
c 47,XY,+18
d 47,XY,+21
e 47,XXY
89C-3 骨髄血塗抹May-Giemsa染色標本(B)を別に示す。
この患児に合併しているのはどれか。
a 伝染性単核球症
b 再生不良性貧血
c 骨髄異形成症候群
d 急性リンパ性白血病
e 慢性骨髄性白血病

2011090213.jpg
解答 1-a,d 2-d 3-d

ダウン症の子どもの症例
・高齢出産
・急性リンパ性白血病に罹患しやすい

78C56
4歳の男児。5日前から発熱と頸部リンパ節腫脹とがあり,本日,出血斑が数か所に出現したので来院した。入院時,全身の表在性リンパ節を多数触知し,肝・脾をそれぞれ5cm触れる。赤血球385万,Hb 10.2g/dl白血球15万血小板7万。末梢血白血球の97%は別に示すカラー写真に見られる細胞で,ペルオキシダーゼ反応は陰性である。骨髄塗抹標本でも同型の細胞が96%検出される。
この疾患について誤っているのはどれか。
(1) 乳児期に頻度が高い。
(2) 髄膜刺激症状がなくても,脳脊髄液検査を行う。
(3) 末梢血で多数にみられる白血球は,PAS反応陽性のことが多い。
(4) 尿酸腎症の予防的治療を行う必要がある。
(5) アクチノマイシンDが第一選択薬となる。

a (1),(2)  b (1),(5)  c (2),(3)  d (3),(4)  e (4),(5)
2011090214.jpg
解答:b
急性リンパ性白血病です。

 うーん、問題の解説が見あたりません。医師の方で、間違いをみつけられましたら、ご指摘ください。

一般の方は、どういった年齢で、初期症状がどんな感じか、また血液検査の値はどんなものか。を見ていただければ幸いです。(何しろ医師国家試験ですから、だれが見ても文句のつけようのない問題文となっています)

 以上で、白血病入門シリーズは終了です。

ご苦労様でした。

■白血病入門
白血病入門(1)熊大の研修医時代
白血病入門(2)初期症状と血液データの読み方
白血病入門(3)白血病の種類と原因
白血病入門(4)治療その1−化学療法−骨髄移植の前準備
白血病入門(5)治療その2−化学療法と骨髄移植他2011.8.31

タグ:白血病
posted by いんちょう at 21:46| Comment(4) | 原子力
この記事へのコメント
1問目と2問目の骨髄標本の写真が同じになってます。3問目の白血球数が問題では75000で増加してますが、解説に白血球数は正常と書かれています。あと最後の問題の答えが抜けてます。
Posted by 血液内科 同期K at 2011年09月04日 14:57
血液内科 同期K さん ありがとうございました。
75000で正常と言っていたら、免許剥奪されますね。また、解答も追加しました。
ご指摘ありがとうございました。

Posted by いんちょう at 2011年09月04日 19:54
こちらに書き込みしていいか悩みましたが、情報として書き込みさせていただきます。

昨日(9/25)、福島県いわき市で肥田舜太郎先生の公演がありました。途中中継が途切れて話が飛んでしまっているのが残念ですが経験者でないと語れない話満載で勉強になりました。

http://www.ustream.tv/recorded/17495852
http://www.ustream.tv/recorded/17495952
http://www.ustream.tv/recorded/17496012
http://www.ustream.tv/recorded/17496606
http://www.ustream.tv/recorded/17496914
Posted by kamosida at 2011年09月26日 12:46
院長先生のブログを3か月ほど前からたびたび訪れさせていただいております滋賀県に暮らすものです。放射性セシウムについてや 車両の汚染など、十分理解できていなかった事柄をわかりやすくおまとめいただいて家族の放射線防護の参考になっております。
 kamosida さんがUPされたIWJFukushimaの映像を拝見いたしました。
 わたしどもは同じ被曝者でありながら、地理的な距離以上に 恐ろしく隔てられてしまっているのだと今回のVTRで認識をさせられました。福島への文科省をはじめとする手ひどい役所の仕打ちを知らなかったわけではなく、憤りを周りに訴えてはいましたが、一方で 身の回りの人間に放射線防護を伝えることに多くの労力を奪われて、汚染の高い地域に放置され、暮らし続けざるを得ないみなさんの立場での視点を想像もできていなかったことを思い知らされました。
 脱原発を訴えることと、福島の皆さんの窮状を打開することを切り離してはならないと強く感じました。福島の子供たちを放置したままの脱原発なんて意味がないと思いました。ご紹介ありがとうございました。院長先生、これからもよろしく。
Posted by マツダマツコ at 2011年09月26日 21:12
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