2012年01月09日

放射能と人体(9)ICRPと低線量被曝−科学的に証明する気はない

 低線量被曝について、12月28日にNHKで放送されました。まとめサイトはこちら
低線量のリスクをめぐる議論は、実は1980年代後半から始まっていました。基準の根拠となっていた広島・長崎の被爆者データがこの頃修正されることになったのです。それまで原爆で1000ミリシーベルトの被曝をした人は5%ガンのリスクが高まるとされてきました。
それが日米の合同調査で、実際はその半分の500ミリシーベルトしか浴びていなかったことがわかったのです。半分の被曝量で同じ5%ということは、リスクは逆に2倍になります。しかしICRPは低線量では半分のまま据え置き、引き上げないことにしたのです。
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なぜ低線量のリスクを引き上げなかったのか。私たちは議論に関わったICRPの元委員に取材することにしました。調べてみると、ある事実がわかりました。当時の主要メンバーは17人。そのうち13人が核開発や原子力政策を担う官庁とその研究所の出身者だったのです。
その一人、チャールズ・マインホールド氏。アメリカ、エネルギー省で核関連施設の安全対策にあたっていた人物です。電話での交渉を重ねて、ようやく私たちの取材に応じました。チャールズ・マインホールド氏、1970年代から90年代半ばまでICRPの基準作りに携わってきました
低線量のリスクを引き上げなかった背景には、原発や核関連施設への配慮があったといいます

マインホールド:原発や核施設は、労働者の基準を甘くしてほしいと訴えていた。その立場はエネルギー省も同じだった。基準が厳しくなれば核施設の運転に支障が出ないか心配していたのだ。

マインホールド氏は自らも作成に関わったという、エネルギー省の内部文書を取り出しました。1990年、ICRPへの要望をまとめた報告書です。低線量のリスクが引き上げられれば、対策に莫大なコストがかかると試算し、懸念を示していました
 マインホールド氏はアメリカの他の委員と協力し、リスクの引き上げに強く抵抗したといいます。

マインホールド:アメリカの委員が低線量では逆に引き下げるべきだと主張したのだ。低線量のリスクを引き上げようとする委員に抵抗するためだった。
その後ICRPは、原発などで働く労働者のために特別な基準を作ります。半分のまま据え置かれていた低線量のリスクをさらに20%引き下げ、労働者がより多くの被曝を許容できるようにしたのです。
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マインホールド:労働者に子供や高齢者はいないので、リスクは下げてもよいと判断した。科学的根拠はなかったが、ICRPの判断で決めたのだ。


つまり、ICRPは科学的に証明する気は全くありません。単に政治的に決める期間に過ぎないと言うことです。

 一方、我が国の被曝にかんする第一人者はドイツ誌とのインタビューで、次のように述べています。
山下:100mSvでも大丈夫だから心配いらない、などとは言っていません。ただ、100mSv未満ではがん発症率の上昇が証明できていない、と話しただけです。これは広島、長崎、チェルノブイリの調査から得られた事実です。

 ICRPには、科学的に証明する気が一切無い(成書を読めば、ICRPの成り立ちからすぐにわかります)のですから、証明できるはずはありません。

 そして、

のp.158から
 数年前、私は放影研からの追跡調査を拒否したことがあった。すると、日本人所長から丁寧な再依頼の手紙が届いた。ABCCは現在、日米共同の研究所になっていること、チェルノブイリの原発事故ほか世界に貢献していること、自分も被曝書であることなどが書かれていた。わたしはその中の「私自身も被ばく者です」という言葉に心を動かされて調査に応じた。
 ところごその後、来日したチェルノブイリの子どもたちとともに過ごす機会があり、依頼、チェルノブイリに関心を寄せて何冊かの本を読んだ。事故の被害を大きくしたのは、事故後に現地調査を依頼された各国調査団の中で、「この程度の放射能は案ずるに及ばない」といった日本人研究者たちの見解をソ連政府がもっとも信頼したからであったという。 ABCCに協力した日本人の中には「悪魔の飽食」で知られる731最近部隊の医学者があったとも言われている。

 この、放影研・私のところにも恐るべき手紙をよこしてきています。

 そして、この放影研は、

がん以外の疾患による死亡として、研究を発表しています。
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 放射能の被害で怖いのは、一般的にいわれているガン よりも、むしろ心血管系の突然死ではないかとも考えています。(統計的に有意とは言えないのかもしれませんが、若年の突然死の報告が増えています)なぜ、山下氏は「ガン」のみ着目しているのでしょうか。そして、チェルノブイリで犯した誤りを、恥ずかしげもなく繰り返そうとしているのでしょう。

最後に、1991年に出版されていた本(今回新版)を紹介します。ICRPなどの放射能安全評価がいかにデタラメであるかが、克明に書かれています。

この本のp.158から
 第7に、ICRPのリスクの考えからは、リスクを「容認」するものにはどこまでもリスクが押しつけられる。この結果、とりわけ社会的に弱い立場にある人びとに放射線の被害が転嫁されることになる。原発で働く労働者の場合も、被害の告発が即解雇につながるような弱い立場にある下請けの労働者に被曝は集中し、被害もまた深刻なものとなる。ウラン鉱石が採掘されるアメリカやカナダのインディアン、オーストラリアの原住民、南アフリカの黒人なども同様である。原子力の施設が建てられるところは、大部分が経済的、社会的に差別れてきたちいきである。原子力産業は経済的な遅れにつけ込んで、札びらで頬をたたいて、、現地の住民に被曝のリスクを受忍せよと迫る。それらの人びとに被曝を強制した上に、被害が表れると、自分たちで過小評価しておいた放射線のリスク評価を用いて、「科学的」には因果関係が証明されないからその被害は原発の放射能が原因ではない、と被害を切り捨てる。
 今おこなわれていること、そのままではありませんか。

 この本も、是非ご一読ください。

(参考)受忍せよとしているリスク(産業医科大
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この大学は、一体だれのために仕事をしているのでしょうか。(聞くまでもないですね。産業医科大学なんですから)
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タグ:放射能
posted by いんちょう at 22:37| Comment(13) | 原子力
この記事へのコメント
このところ気になってること・・・
1月6日に富山県朝日町の温泉で2人の70代の方が急死された件。
ご高齢でもあるし、ヒートショックも確かにあるだろうが、
朝日町といえば、富山でも比較的空間線量が高めに出ている山岳部の下流域に当たるのでは?
Posted by らいむ at 2012年01月10日 00:19
「ICRPは低線量ではそのまま半分とし、引き上げなかった」

1990年に出されたICRP60号勧告では職業被曝は年50mSvから5年100mSv,公衆被曝は年5mSvから1mSvに規制強化していると元NHKのディレクターである池田信夫がこの番組を批難してます。詳細は池田信夫のブログ12月29日、30日の記事をご覧下さい。私は池田氏の放射線被曝の主張には大いに疑問を感じていますが、上記の部分については反論が無かったことから、NHKの間違いではないかと思ってます。
Posted by 本多敏治 at 2012年01月10日 08:12
らいむさんと同様、この「富山県朝日町の温泉2人死亡」のニュースも気になりました。
高齢によるヒートショックのほか「温泉水の放射能汚染」はないと言えるのでしょうか。

フクイチには地下水が大量に流れ込んでいると報道されています。
と言うことは地下水脈とすでにつながっているということ。

高濃度の放射能汚染水が、本州の大地の下を縦横無尽に拡散しているかと思うと、とても怖ろしい。
東北や北関東の温泉は注意した方がいいのではないかと、考えています。
地下水を使ったビールやお豆腐など大丈夫といえるのでしょうか。

末筆になりましたが。
小野先生、お忙しい中いつも貴重なデータをありがとうございます。どうかすべての人が、放射能の恐ろしさに気付くよう、ずっと警鐘を鳴らし続けて欲しいと願っております。
Posted by さくら at 2012年01月10日 14:55
こんにちは、初めてコメントさせていただきます。
私は東京在住の者です。
いつもツイッター、ブログを拝見しております。
いろいろと参考にさせていただいています。
福島原発勤務経験のあるお医者様…とても興味深いです^^

昨年8月に、友達(37歳、千葉市在住)が乳がんになり、12月にまた別の友達(40歳、船橋市在住、勤務地東京)が乳がんになりました。
二人とも放射能を気にしない人たちでした。
今回の原発事故に関係があるのかないのか…。
Posted by dayou_ at 2012年01月11日 11:56
初めてコメントいたします。
震災以降、ちょくちょく訪問させていただいています。東電勤務経験者で医師という異例の経歴で、放射線障害の危険性を周知なさろうとお忙しい中毎日更新してくださりありがとうございます。
当方、福島の隣県栃木県中央部在住の主婦です。震災以降も避難できず、生活に気を使いながら生活しております。家族全員に気になる被曝症状のような異変が起きています。
中でも気になるのが55歳の夫です。運悪く3月の高線量の雨に打たれ(21日、22日職場の復旧のため雨の中で作業した。ちゃんとしたカッパは着用せず)、4月に入って以降、下痢、足に異様なピンク色のできもの、発熱、頭痛、腰痛、首痛、食欲不振、目の周りのクマ、などの症状が出ました。今も下痢はよくあるようです。首の痛みが気になるらしく、左の鎖骨の下に違和感があり、首を動かすと増すようです。先日(9月)会社の人間ドックがあり、血液などはほぼ異常な値はなかったのですが(もともと脂肪肝でその関連の値は悪い)、CRPが0.42と高めでした。最近寝汗を訴えるようになり病院に行くように薦めていますが、現実と向き合うのが怖いのか何かと理由をつけて行きません。もともと元気はつらつなタイプではありませんでしたが、昨今は倦怠感が半端ないのか休みの日はしょっちゅう昼寝しています。

院長先生は主人の症状をどう思われますか?
私は当然病院に行ったほうがいいと思うのですがまずは何科に行けばいいのでしょうか?

主人を説得するためアドバイスいただければ幸いです。
Posted by ママリン at 2012年01月11日 17:53
左の鎖骨の下に違和感があり、首を動かすと増す・・リンパの腫大でしょうか?寝汗もあるなら、リンパ腫などを疑います。

受診は、血液内科などがいいのではと私は思います。

全身倦怠感が強いのは、ちょっと心配です。
Posted by いんちょう at 2012年01月11日 22:09
地下水について_さくらさんへ
(ちょっと長くなります、いんちょう様すみません)

地下水の流れを研究しているのは、水文学(すいもんがく)という分野になると思います。
昔、学生時代、地球科学を専攻していたので、少しばかりわかります(直接の専門ではないですが、学術文献を読んで大まかに理解できる程度)。
昨年の震災後、私も地下水が心配になっていろいろ検索して、下の資料を見つけました。

福島県の地下水環境
http://www.scribd.com/doc/59703697/Untitled
独立行政法人 産業技術総合研究所の研究者の方々によるシミュレーションで、組織名も個人名も明記してアップされています。

地下水脈といっても、鍾乳洞のように地下に川があって滔滔と流れているわけではなく、比較的新しく積もった地層の中に、帯水層といって水を含みやすい地層があって、そこに含まれている水が循環しているということだったと思います。
基本的に日本列島の背骨をつくっている山脈のところは、地下の深部からずっと古い地層でできた岩盤のはずなので、福島のような平野や台地を造っている新しい地層に含まれている地下水がその山脈の下を通り抜けて(岩盤を突き抜けて)日本海側にしみ出していくということはめったに無いと思います。小出先生の言う地下ダムが自然にできているという感じでしょうか。
地下水の層も、浅いものから深いものまで何層かあって、浅いものは川や湖など地表の水の流れとつながっています(湧き水がまさにその境目ですね)。海につながっている層はもっと深いものもあると思います。
上記リンクは、比較的浅い層の地下水についてF1の30km圏からの流出入をみたもののようです。

(曰く)
「地下水流向を、福島第一原発から半径30km圏を中心に拡大して示すと図-4のとおりである。原発から半径30km圏にある地下水は、阿武隈高地から海に向かう流れが支配的であるが、陸側に着目すると、北側よりも西側および南側から圏外に流出することが分かる。これらの流出する地下水が人口密集地である浜通りの郡山市周辺や浜通り南部のいわき市周辺に向かうと、事故状況が改善された後であっても、地下水の流速が遅いために、両市の生活用水に時間差で影響が出ることを否定できない。心配な地域では、表層汚染による影響が小さな深井戸を整備するなどして、水供給システムを強化するとより高い安心が得られると考える。」

とあります。その他、地形の平坦な沿岸域では地下水の挙動が複雑である可能性が高く、最終判断には現地調査も必要だろうとも述べられています。

実は、この資料の内容よりももっと怖いと思うのは、
この資料、昨年6月頃に見つけてブックマークしておいたのですが、その時には載っていた「図-4」という分かりやすい図が、秋頃に再度みたときには無くなっていて、本文の記載にその名残が残っているだけであることです。
いつの間に、なんのために削除してしまったのでしょう。
背筋の寒くなるような気持ちの悪さです。


本日(1月12日)の木下黄太氏のブログにある
「横浜市旭区の高校で、同じ日の夜に、教師一人と生徒一人が、突然死」
についても(その話が本当だとしたら、ですが)、マスコミがどこも報道しないのも不自然ですし。
Posted by らいむ at 2012年01月12日 15:25
院長先生、お返事ありがとうございます。

幸い市内に総合病院があります。血液内科もあるようです。

近いうちに説得して受診させたいと思います。

また何かありましたら相談に乗ってください。
Posted by ママリン at 2012年01月12日 22:54
地下水流についてですが,地下30mないし50mの深さまで福一を取り囲む円周のコンクリートダム壁を建設して、周辺表層地域への汚染地下水流出をブロックすれば十分であると考えます。
それ以上の深さでおせん地下水が陸地の方へ向かって拡散することは考えにくいと思います。それは臨海地域であり海に近接していることから、真水と海水の浸透圧勾配から考えて海(海底)へむかって一方向性に地下水流が流れていくと考えられるからです。浸透圧勾配に逆らって陸地の方へ大きな地下水流が作られることは考えにくいでしょう。もちろん実地に複数箇所に地下放射能モニターを設置して水流をつねにチェックすることは絶対必要ですが。
Posted by 通りがけ at 2012年01月13日 15:56
地下ダムコンクリート壁建設方法は日本の土木技術の粋であるトンネル掘削技術シールド工法で垂直三段〜五段重ねにトンネル掘削してゆけばよい。アクアラインもドーバー海峡も掘り抜いたのは日本のシールド工法技術です。チェルノブイリでも地下コンクリートダム壁建設に活躍しました。国内土木会社の総力を投入して突貫作業で取り掛かれば海底トンネルよりもはるかに早く1年以内に垂直三段トンネルくらい完成できるでしょう。

こんなあたりまえの原発事故地下水汚染対策、311直後からとりかかっておけばよかったことです。なにもせず放置された結果の被害拡大部分はすべて汚染封じ込め行政出動対策を放棄した菅危機管理無能内閣の責任ですね。
これは傷害致死被害も含まれますから刑事民事ともに重大な責任を伴います。
Posted by 通りがけ at 2012年01月14日 13:51
地下コンクリート隔壁建設にトンネルを掘る方法はすでにチェルノブイリで経験済みである。
参考:「破綻処理避けられず 〜いますぐ地下ダム着工を 手遅れ許されない」Goodbye! よらしむべし、知らしむべからずさま
http://c3plamo.slyip.com/blog/archives/2011/06/post_2119.html

これをあえてやらないこと自体菅内閣東電保安院霞ヶ関記者クラブマスゴミ一体の放射能棄民テロ犯行実行中の証明となる。

菅内閣も野田内閣も全く同罪の憲法に対する反逆である棄民テロ実行犯罪者内閣であり、憲法に従って直ちに全員逮捕刑事訴追されなければならない。
Posted by 通りがけ at 2012年01月14日 15:43
はじめまして。いつも信頼できるものとして読ませていただいています。この低線量被爆と病気の関係で先生に是非、論じてもらいたいのですが、TEAM中川こと中川恵一氏の書籍です。参考にAMAZONでは、北朝鮮かと思うぐらいの整然としたレビューが並んでいます。どうも腑に落ちないのですが、いかがでしょうか?
Posted by 陳 at 2012年02月07日 13:47
こんにちは。
>放射能の被害で怖いのは、一般的にいわれているガン よりも、むしろ心血管系の突然死ではないか
私事ですが私の従妹(62才)が昨年8月から9月にかけて東京の自分の娘夫婦のところで家事手伝いの為滞在していましたが九州へ帰宅して今年そうそうに「急性心臓病」で突然死しました。車に乗ろうとして倒れすぐ病院へ運ばれましたが手遅れでした。
身内にこういう死に方をしたものは一人もいません。
少なからず放射能汚染との関連を考えざるを得ません。
田舎の人間で新聞やテレビの報道は間違いはないと思っている素朴な女でした・・
Posted by イミン慕い at 2012年02月27日 16:23
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