2012年08月20日

福島の思い出(19)・・OJT 東電得意の教育方法

 東京電力というのは面白い会社で、給与の計算方法から、賞罰の類まですべて事細かにマニュアルがあります。ところが、仕事内容についてのマニュアルは一切ありません(少なくとも原子力ではありませんでした)。どのように検査をするのかどころか、積算という工事の見積もりを作る計算システムにもそのようなマニュアルは一切なく、先発社員BB(Big Brother)から口伝で教えてもらいます。

 仕事内容はどう覚えるのか。OJT (On Job Training)です。要は、見よう見まねで勉強しろというわけ。なぜ、それでヘマをしないのかといえば、実際に仕事をするのは協力企業の人たちだから。最初に現場に行ったときは、何にも知りません。(大学での勉強は、への突っ張りにもなりません。何しろ、バルブの図面すら見たことなかったのですから)

 最初に立ち会いに言ったのは、バルブの点検だったでしょうか。管理区域内の防護服は東電社員がうす青色であるのにたいして、協力社員(東電社員以外)はやや濃い青を着ていますので、誰が見ても東電社員であることはすぐにわかります。東電社員が近づくと
「おい、お客さんが来たぞ。」
と言われます。(東電がカネを支払って、協力企業の方に作業をしてもらっているので、協力企業の立場から見ると、東電=カネを支払う人間=お客さん)この表現には、最後まで慣れませんでした。なにせ、自分の所有物である発電所を補修してもらって、なぜその所有者が「お客さん」と呼ばれるのか。このように呼ばせていること自体が、東電体質なんでしょうね。きっと。

 さて、現場に行くと白くお化粧を施したような、バルブと弁座がおいてありました。私にとっては初めて見るもの。これは何ですか?と質問すると、現場の人が詳しく説明してくれます。
作業員「これは、ぴーてぃ(PT)といって、非破壊検査です。赤い浸出液を塗ったあとに綺麗に拭き取り、そのあと白いおしろいのようなものを塗ります。もし、ひびがあった場合は赤い線が浮き出てきます。」
私「どのように判定すればいいんでしょうか?」
作業員「だいたい、○○に1個くらいの傷であれば問題ないとされています。」
私「じゃあ、このくらいはいいんですね?」
作業員「ええ、そうです。全部ご覧になりますか?」
私「いえいえ、私が見てもわからないから、いいです。あとよろしくお願いいたします」
と言った感じでしょうか。

PT検査の原理
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実際の施行状況
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傷があったとき
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このような原理ですから、拭き取りが下手だと赤い溶剤が表に出てしまうことがあります。東電社員もそうですが、国の役人は何も知らずに検査に来ることがありますから、拭き残しの赤い点をみて不合格と言い放つことも多いにあり得ます(国の役人は、現場を歩いた経験など一切ありませんし、教育機関もまったく持っていませんから、東電社員以上に何にも知りません)。強者(つわもの)は白い塗料だけ塗って、MITI検査を通過させると聞きましたが、本当か嘘かは知りません。まあ、通産の役人検査の前に元請け、東電の検査を受けていますから、MITIの立ち会い検査はセレモニーに過ぎないのですが。。。

 それにしても、「原子力規制庁」さえ作れば全部うまくいくと言っている政府とマスコミ。私から考えるとナンセンスです。一体だれがなるのか、そしてその職員の教育をどのようにつけていくのか。そういったところが何にもなくて、ただ組織さえいじくれば、原子力の安全がさも自動的に生まれてくるかのような報道には、大変情けなく思うとともに腹立たしく思っています。米国のNRCがなぜ技術的にしっかりしているかと言えば、原子力空母、原子力潜水艦などを実際に扱ったことのある職員が多数勤務しているからと聞いたことがあります。日本にそのような職場があるのでしょうか。はなはだ疑問です。・・話がそれてしまいました。


 現場終了後にこの立ち会い記録について印鑑を押してくれと書類を持ってきてもらいますが、なにせ押さなければならない量が膨大にありますから、通常は印鑑を渡してしまいます。いくら、書類上の検査を厳しくしても何の意味もないことは、あきらかです。単にチェック書類が多くなるだけで、実情とはかけ離れたものなんですから。

 ちょっと知っていそうな現場作業員がいると、もう少したずねます。
私「非破壊検査には他にどう言うものがあるんでしょう?」
作業員「超音波でするUTや、放射線でするRT、あと磁力のMTなどがありますかね。」(このあたり、もうあやふや)

こういった感じで、現場の作業員に教えてもらって智恵を増やしていく。これこそが、東電得意のOJTなわけです。

タービン班は、1次下請の会社数は非常に多く、
・東芝
・日立
はもちろんのこと、
・東電工業
・東京電気工務所(TDK)
・ウツエバルブ
・岡野バルブ
・石川島播磨サービス
・日立サービス
・阪和(保温)
(まだまだあったと思うのですが、思い出せません)
などが、各社入り乱れて仕事をします。阪和という保温材の施工業者と仕事をしたときに、東電の仕事と下請けの仕事、どのくらい違いますか?(この会社は、東電の元請けの仕事と下請けの仕事両方をしていました)と聞いたことがあります。
「東電さんの仕事が、このオードブルだとすると、下請けの仕事は灰皿です。」
と教えてくれました。当時は意味がよくわからなかったのですが、今なら何となくわかります。豪華絢爛な食事をとれるだけの利幅があるのか、それともどうしても必要なだけの利幅しかないのか。恐らく、そういったことでしょう。

 このような調子で知識を得ているのが東電社員ですから、自分自身では何にもできません。東電社員の力量がいかほどなものか。良くおわかりになるのではありませんか?

■東電の思い出
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  4. 福島の思い出(4)・・3交代(日勤)
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posted by いんちょう at 20:39| Comment(7) | 原子力
この記事へのコメント
いつも拝見させていただいております。頑張って下さい。
Posted by 病気になりたくない at 2012年08月21日 01:27
電力会社にはバカ殿様がいっぱいいるわけですな。役所体質の組織はどこもそういう人間の巣窟でしょう。

ところで、バカ殿は放射能の放出量が90京ベクレルでチェルノの数分の一と発表しましたが、これは本当なのでしょうか?
http://jin115.com/archives/51873594.html

90京ベクレルをグラム換算すると、200グラム足らずだそうです。
http://hosohashi.blog59.fc2.com/blog-entry-29.html

核燃料のウラン含有率が3%程度であるとはいえ、3号機プール核爆発で数トンは吹き飛んでいるはずで、90京ベクレルの数百倍〜数千倍になるはずです。

ひょっとして、「放出量とは、敷地外に出た分なので、3号機核爆発で吹き出た分は殆ど防波堤の内側に落ちたからカウントしません」ということなのでしょうか。

格納容器が穴あきナベになり、プールが屋根無し減圧なしになった以上、放出量は、「圧力容器から溶けて流れ出た分+爆発で吹き飛びプールの外に出た分」でカウントすべきだと思います。

放出量の定義は法律やらで決まってるのかな。
Posted by 都民 at 2012年08月21日 11:31
Big Brotherって、ジョージ オーウェルが1948年に未来の監視社会を書いた小説『1984』の最高権力者らしき人ですよね。"Big brother is watching you."と監視社会の標語を何度も繰り返して、人々を恐怖で縛り上げるのです。何十年も前から東電が先発社員をBig Brotherと呼ばせていたとは、グロテスクですね。
Posted by 元新宿区民 at 2012年08月21日 17:40
技術系の企業で、マニュアルというか作業手順書がないというのはすごい。ありえない。
それとBig Brotherという呼び名は、魔術結社とかで使われるという事を、昔小説で読んだ事が有ります。なんとなくキモイ。
Posted by phantom at 2012年08月21日 21:33
先生 この人↓ 何の出入り業者かわからないから 相手にしないほうがいいと思います


http://twilog.org/tosshiakki/

2012年07月24日(火)

すまんね、仕事柄平日休みが多いんだ
posted at 14:47:32
Posted by コメント非表示お願いします at 2012年08月22日 00:24
院長先生
お疲れ様です。
ちょっと外に出ていたので、ブログを拝見するのは、2週間ぶりです。
いつも、分析が鋭く広いので、
感心して拝見しています。

今回ブログでお書きになった現実は、
何も東電・電力業界だけでなく、
他の大手各種メーカーにも
言えることなのですが、
読んでいて、これこそが、日本の
‘癌’となっている社会構造なんだと思って
身につまされます。
今、東電に居残っている人は、
「ふだんの業務においても、
 協力会社が全てやってくれているので、
 結果として、何もできなくなっている
 裸の王様でしかない自分」
「事故が起こっても、指を加えたままで、
 収束どころか、事実を隠蔽する事しかできない自分」
が、大手企業のシンボルと考えているかもしれませんが、これでは、自らには何の正義も無く、
実に情けないですよね。

この
施設を自身で持っているにもかかわらず
東電を「お客様」と言われ、
「東電では何もできない」
と言う構造を、変えない限りは、
第2の福島第一事故は
再び起きます。
日本政府主導の閣僚を動かしての
動きが必要です。
私の知り合いで、環境省の人なのに、
Facebookで、昼食やおやつの献立だけを
材料の産地は作り方等、
詳しくA41枚程度で毎日分析して掲載、
それに対し、部下も彼に気を遣って、多数
「いいね」を押してくれている人がいますが、
野田はじめ日本政府が
しっかりしているならば、
悪いですが、
彼は
こんなことをしている暇は無いと見ます。
Posted by ちゃまいえ at 2012年08月22日 00:32
このお話からだと、規制庁で安全確認する検査官などは、下請けのさらに下請けで何年も仕事をした経験のあるような人ではないと、実際にはわからない、と言うことになりますね・・。そういう人達が十分なお給料を貰えれば、あるいは何らかの効果的な監視システムがあれば、検査官になって、接待されたり賄賂をもらったり、自分の元所属していた所に心情的に手心を加えることは、しないようになるだろうか? う〜ん、疑問だ。

やっぱり私は、根源的に、人間のような誘惑に負けやすく、意図的であるかないかにかかわらず、間違いを犯しやすい不完全な存在が、原発などに関わるべきでないという意見に一票。

Posted by あじさい2 at 2012年08月23日 03:36
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