2012年08月30日

ドライベントしていたフクシマ−意味と背景

 原子炉格納容器−−決して放射能をもらさないための砦。チェルノブイリと違って、この格納容器があるからこそ、日本の原発は決して外に放射能を漏らさないと豪語していました。
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ところが、フクシマで漏らしてからは、ついに堂々と次のような記事が載るようになってしまいましたし、その危険性を記事で指摘するどころか、簡単に放射能が漏らさないようにしていたからこそ、事故が大きくなったと言い出す始末です。

福島第一事故 安全装置 ベント妨げる 2012年8月29日 朝刊
 昨年三月の東京電力福島第一原発事故で、早い段階で原子炉への注水に向け、ベント(排気)をしようとしたのに、配管の途中にある安全装置の設計が悪く、対応が遅れる大きな原因になっていたことが、東電の社内テレビ会議映像から分かった。放射能を閉じ込めるための安全装置が、逆に事故を深刻化させていたことになる。 
 事故では、2、3号機とも高圧で注水する装置が使えなくなり、消防車などで注水しようとしたが、原子炉(圧力容器)の圧力が高く難航した。
 炉の圧力を下げるには、格納容器に蒸気を逃がす弁(SR弁)を開け、合わせてベントをする必要がある。だが、ベント配管の途中に設置されている「ラプチャーディスク(破裂板)」と呼ばれるステンレスの円板が、ベントの障害となった。
 ディスクは、配管にふたをする役目をしており、一定の圧力がかからないと破れない仕組み。誤ってベント弁を開けてしまっても、放射性物質が外部に漏れ出さないようにするのが目的だ。
 しかし、ディスクの設定圧力が高すぎ、早く炉の減圧とベントをして一刻も早く注水をしたいのに、なかなかディスクが破れず対応が遅れ、その間にも核燃料が過熱していく悪循環を起こした。
 テレビ会議の映像には、「ベント前に炉心損傷ということになっちゃう」(十三日午前五時すぎ、3号機への対応で)、「ラプチャーが開くのを待っているところ」(十四日午後十時ごろ、2号機への対応で)など、もどかしい現場の様子が何度も出てくる。

 東電の宮田浩一・原子力安全グループマネジャーは「ベントをしたいと思った時にできなかったことが最もつらい状況だった」と振り返る。

 経済産業省原子力安全・保安院は事故の反省を踏まえ、ディスクがベントの妨げにならないよう見直すべきだとの考えで、原子力規制委員会に対応を引き継ぐ見通しだ。

 北海道大の奈良林直教授(原子力工学)は「欧州ではディスクを迂回(うかい)するルートを設け割れなくてもベントをできるようにしている国もある。日本はこれまで『格納容器から漏らさない』との呪縛にとらわれており、それが設計にも反映されていた」と話している。


 いやはや大したものです。そもそも格納容器からは絶対に放射能は漏らしませんから大丈夫と言っておいて、ポーズのためにベント配管を後付けでつけたのが東京電力。そして、その設計にかかわっていた、東電の宮田、そして元東芝の奈良林。自分で設計しておきながら、設備が悪いとはよくぞ言えたものです。そもそも炉圧は70キロ程度もあるのに、消防車で注水などできないことなんて、ハナから分かりきった話。それでも大丈夫なように、高圧炉心注水系、低圧炉心注水系など様々な安全装置をつけているのですから、まさしく想定を超えた事態。それを、もともとの機械が悪かったなど、よくもまあ他人事のような風を装えたものです。恥を知りなさいと 言いたいところです。

ところで、このポンチ絵
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ドライウエルベントとウェットウエルベントの両ラインが書かれており、ウェットウエルベントを使用しているように書いてあります。

系統図
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D/W*16 = ドライウエル  W/W*17 = ウェットウエル

です。この2つのラインは炉内の蒸気を一度水の中を通すか、通さないかで大きく異なります。水の中を一度でも通していれば、水溶性の放射能はほとんど水中に溶け出しますから、放射能が大きく減衰します。ところが、D/Wベントを行いますと、すべての放射能が環境中に放出されることになり、その被害はとんでもないものとなります。実際、以前紹介した動画でも、次のような内容を見ることができます。

吉田「今、安全委員長の斑目先生から電話が来まして、格納容器のベントラインを生かすよりも注水を先にすべきじゃないかと。ようするに減圧すると水が入っていくんだから、それを待たないで、一刻も早く水を入れるべきだというサジェスチョンが安全委員長から来たんですが、そのサジェスチョンに対して、ちょっと安全屋さんそれで言いかかしら。」
サイト安全屋「今、サプレッションチャンバーの水温が130度を超えていて、えーと、蒸気がSR弁を介してサプレッションチャンバーにおちても、おそらく凝縮しないで、ていうことは減圧が見込めない。そうなるとSR弁だけふいて、水がそれだけお釜から出てきて、かつ減圧出来ないという状況になると言うことを恐れているというのが実態です。」

宮田「すいません、本店のぴーー、吉田ぶ所長、吉田所長」(記事は、この声の主)「本店のピー。138度の件はわかっています。で、あの蒸気は200何十度ありますね。それが138度になるといったん水に落ちるんですよ。だけど、じゃあ凝縮性能はたしかに落ちますけど、その結果としてドライウエル圧力若干上がると思います。だけど凝縮性能が失われているというわけではないということだと思います。」

吉田「いいですか、じゃあ,それで。今の話しは、もうベントをあげる前にやっちゃっていいと言うこと。もう,冷却したほうがいいという話をしてるわけ。」

宮田「いや、冷却じゃなくて、ベントをすることは問題ないと思っているということです。」
(こんな当たり前の議論を言うところが、さすが・・。こんな回答をされて、サイトの所長が怒り心頭)
吉田「今、違うでしょ、議論しているのは。今の争点は、ベントラインが生きる前に減圧して、水を突っ込むべきだと言うことを斑目先生がおっしゃっている」
宮田「はい、あのその場合の心配点は、サプレッションチャンバーの水位がですね、そのまんま上昇を続けて、現在水位不明だと思いますけど、ウエットウエルベントラインが埋まってしまう懸念があると思っています。現在も埋まっている可能性があると思いますが、あの早めにベントするようにしないとウェットウエルラインが,いかせなくなると言うことを懸念します」
(またも、論点ずれ。ベントラインを解放して、SR弁で炉内の圧力を下げて、それから注水するしかありません。注水ポンプだけを稼働しても、下手をすると炉内から蒸気が逆流するだけ。そう説明してあげればいいのに、宮田はベントラインを解放するべきという当時サイトが一生懸命やっているのにできないことを、机上の空論のごとく繰り返すのみ)
吉田「で、結論から言うと、斑目先生のおっしゃるとおりだということでいいんですか。」
宮田「サブチャンからのベントをトライするべきではないかということです。」
吉田「ですから、サブチャンからのベントは、今トライしているんです」
宮田(やや焦って)「ですから、あのー。炉注を継続すると言うことよりも、まず炉注はあの次の減圧してやるっと言うことをを前提にベントをすべきだと言うことです」
吉田「ちょっとさー、ピー、斑目先生の主張と何が違うんだっけ。我々はサブチャンからのベントラインを生かそうとしているわけよ。(宮田 そういうことですね)それいかしてから、あの減圧してから注入しようとしていると言っているわけ。それを生かしてから減圧して注入しようとしているわけよ。斑目先生は、サブチャンからの減圧ラインを生かす必要がなくて、まず突っ込みなさいと言っているわけよ。」
宮田「そこはあの〜判断だと思うんですが、結局、最後にですね炉心損傷してしまったあとのことを考えるとドライウエルベントしかなくなるということにたいする懸念で、先にまずサブチャンからのベントからやった方がいうに思うわけです」
吉田「思うのはいいんだけどさ(宮田−スミマセン)今は時間がなくて、すぐに操作をやりなさいと言っているですけど、それでいいんですかといっているんです。」
・・
吉田「だから、我々のやり方で認めていただいたとわけね。」
本店「そいで、吉田君さあ、だいだいさっきから言うとベント弁開いてないといけない時間じゃないの。」
吉田「そうです。だから、ちょっとかくにんしますが、ベント弁を開ければ、すぐに操作に書かれるわけで・・そのところどうなの。」
現場「今接続作業をおこなっています。まだです。」
吉田「だから、脇に置いておけって、状況を確認するやつをさあ。」
本店「まずは、ベント弁を開けるわけですね。それで、状況を逐次教えていただくと言うことで・・」
・・
吉田「本店の方でフォローをしっかりしてください。私の方で十分説明出来ないんで」
宮田「了解しました。」

 書き出し面倒ですね。。抜粋ですが。 この宮田氏緊迫したところで、非常にとんちんかんな受け答えをしていることがよくわかります。現場の言いたいこととわざと?違うことを回答する。以前の同僚でもあったので、非常に腑に落ちます。ここで、「ドライウエルベントしかなくなるのを恐れている」というのは、ドライウエルの生放射能が出るととんでもない被害が出ることを知っているからです。

ところが・・・・

東日本大震災:福島第1原発事故 東電テレビ会議公開映像検証 現場、募るいらだち 首脳、危機感乏しく(その2止)
 真っ暗で線量も高く、現場に近づくのは簡単ではない。SR弁を開く作業を進めるも、なかなか開かない。ベントも急ぐ必要があるが、遅々として進まず、本店と現場で緊迫したやりとりが続く。
 <本店「高圧の状態で炉心損傷しますと、ほんの数時間で格納容器破損までいきます」>
 <第1原発「かなりシビアな話だと思います」>
 <早瀬佑一顧問「一番開きやすいSR弁を探して早くバッテリーをつないで!」>
 <吉田氏「はい。はい」>
 <第1原発「ベントが一番先だ」「早急にドライウェルの小弁を開けなきゃいけない。許可をいただけますか」>
 <高橋氏「やってくれ。やらないと壊れちゃう」>
 <小森氏(OFC)「ドライウェルの小弁というのは、それは格納容器の中のもの(放射性物質)は出ちゃうんですよ」
 <武藤氏「開けるしかないんだよ」>
 <吉田氏「そう。これは(格納容器が)ブレークする(破れる)のを(回避するためには)、後のことを考えないで今やるべきだと思うよ」>
 <小森氏(OFC)「風向きだけ見といてください」>
 <早瀬氏「おい吉田、できるんなら、すぐやれ。余計なことは考えるな。こっちで全部責任取るから」>
 <第1原発「ベント、ベントって、どこの何をベントしたらいいの?」>
 <早瀬氏「とにかく小弁でもいいから早く開け!」>
 <吉田氏「はい、はい、指示してます」>
 <高橋氏「もう1弁あるからさあ、そっちは開いてるのかい?」>
 <吉田氏「今操作してますんで、ディスターブ(邪魔)しないでください」>

これが、3月14日深夜帯のこと。ベントもSR弁も開かず、仕方なしにドライウエルベントをしたことがビデオに残っています。もはや,致死量の放射能が漏らすことになるのは、この緊迫したやりとりからわかります。特に、太字に示した小森氏の言葉が光ります。

小森氏(OFC)「ドライウェルの小弁というのは、それは格納容器の中のもの(放射性物質)は出ちゃうんですよ」
OFCは大熊町にある、Off site center の略でしょうか。つまり、ドライウエルベントでまともに被害を受ける場所に小森氏は、いたわけです。当然自分にも高濃度の放射能が降ってきますから、風向きを気にしています。

そして、吉田所長のホンネ
<吉田氏「そう。これは(格納容器が)ブレークする(破れる)のを(回避するためには)、後のことを考えないで今やるべきだと思うよ」>

 この操作は 後のことを考えない=フクシマはもはやどうしようもない 地球全体の破滅に至るくらいなら、出してしまうという決断をしたことなのです。

*ドライウエルベントは、この状況下では炉内の生蒸気をそのまま出すのと同じ

何もかも知っている小森氏は、2011.3.19の福島県の記者会見で、致死量の放射能が漏洩したことを認め、泣き崩れます
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どうでしょうか。何が起きたのか、一つのストーリーになって見えてきませんか。チェルノブイリよりもはるかに被害が少ないと話している医学者もいるようですが、医学者がこのような内幕を理解しているのでしょうかね。

原発事故の教訓発表 IPPNW世界大会最終日 広島産経新聞 8月27日(月)7時55分配信
 核戦争防止と核兵器廃絶を話し合う第20回核戦争防止国際医師会議(IPPNW)世界大会は26日、最終日を迎え、広島市中区の広島国際会議場で、東京電力福島第1原発事故の影響や教訓などについて医師らが発表、「福島のような被害が起きないよう行動する」とのヒロシマ平和アピールが読み上げられた。
 この日は、広島大学原爆放射線医科学研究所の細井義夫教授や広島大学大学院の谷川攻一教授らが発表。
 細井教授は放射性物質の発がんの危険性などを指摘する一方、プルーム(放射性物質の雲)が短時間だったことや、福島第1原発事故の一部避難民らのデータをもとに、チェルノブイリ原発事故より影響は小さいとした
 また、谷川教授は福島第1原発事故で、病院への患者搬送に2日間かかった例を紹介し、搬送手段の確保の重要性などを訴えた。


 医学者が放射能漏洩量に対して言及する。工学者が人体の影響について話す。どちらも非常に危険なことだと思いますが。

◆関連ブログ
東電を辞めた理由(1)・・格納容器2011年07月23日

タグ:1F ベント
posted by いんちょう at 19:08| Comment(8) | 原子力
この記事へのコメント
東電や保安院が、ウェットベント干上がりによってドライベントに陥る事態を想定していなかった。アホ!カス!

しかし、そういう事態になるような欠陥原子炉の責任を未だに追求していない経産省はもっとカス。

どうせGEを告訴できない契約になっているのだろうが、それはGEの責任追求をサボる理由にはならない。
Posted by 都民 at 2012年08月30日 20:11
いつもブログ拝見させていただいております。
非常に有益な情報ありがとうございます。

今回の記述について、一点質問があります。
ドライベントによって格納容器内の放射性物質が外部に漏れてしまうとの記述がありますが、この時の格納容器内の放射性物質は圧力容器内のもと同等のレベルのものだったのでしょうか?

よろしくお願いいたします。
Posted by dotti18 at 2012年08月30日 21:35
院長先生、いつもありがとうございます。

有名ブロガー、カレイドスコープさんの記事(8/30)で知ったのですが、
福島第一の非常用冷却システムが、小泉政権下で取り外されていたとのこと。
昨年6月の告発ですが自分は記憶になく、、。

技術的な事は分からないのですが、それがあれば全く違っていたのでしょうか。
だとしたら、陰謀論でしか説明できないくらい解せない話です。

的外れなコメントでしたらすみません。
Posted by 東海地方在住 at 2012年08月31日 12:02
院長先生、いつも情報発信有難うございます。

某県立医大では放射能障害の実態が外部に漏れることを懸念したのか、当該患者さんが搬送されて来たら救急外来など一般の外来を使用しなくなり、センターでのみ受け入れているそうです。看護師もローテーションではなく「専属看護師」にしているとか。専属になった看護師の被ばくも心配ですね。

隠ぺいするための工夫も限界に近くなってるのではないでしょうか。要所要所に放医研や防医大・産医大医師を送り込んでいるようですが、無限に医師がいるわけでもないですからね。
Posted by GoGo at 2012年08月31日 23:33
医者は医学、工学者は工学。専門職は、その専門を頑張ってほしいのですが。
さて、主婦の私は、家族が被曝しないように心がけるのみです。
それにはがれき焼却阻止も含みます。
政治にも繋がりますね…
なんと根深い問題なんでしょうか。
Posted by あゆ at 2012年09月01日 09:32
泣く小森氏の写真を見ていて、
原発で働く父親が、検査員からカウンターをとりあげ自分の娘に当てて、「(この数値)やベーじゃないか!」と怒鳴った、
という話を思い出しました。

頭で分かっていた「3.11以降、日本は変わってしまった」という事実が、
今、重く、現実として、実感として迫ってきます。
Posted by 風 at 2012年09月01日 18:05
東電の幹部が、大泣きしていた映像が、なにか重大なことを物語っていると思っていましたが、今回の記事で、やっと理解ができた気がします。
いつも、有用な記事をありがとうございます。院長でないと、書けませんよこんなのは。
Posted by sarabande at 2012年09月02日 22:45
・海水注入→ウエットベント→ドライベント(最後の手段)

・同時並行作業として、自家発電復旧or/and

外部電源者により通常海水冷却実施

 ドライベント前迄に非常時・隔離時・高圧冷却およ

 び通常海水冷却をめざすべきであったのでし ょう。

 外部より電源者用交流/直流変機持込にて

 操作電源確保すべきであったのでしょう。

 あるいは高圧電源のままポンプをまわせば

 ベントせずに注入できたのか?

 要検証。

 海水浴びたバッテリーは、海水ふき取りにて

 復旧できないのか?

 要検証。

 以上事後検証ですが、大飯原発のことも

 踏まえ提言したいと思っています。
Posted by (希望)防災工学者 at 2012年12月14日 12:42
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