2013年05月20日

林一郎の先天奇形図譜を読む(2)−放射線と奇形との関連

先天奇形図譜−物理的影響から

b.物理的要因
これには電離放射線,マイクロ波,超短波,低酸素およびCO中毒など, さらに羊膜あるいは胎盤などの器官との癒着,流産後の妊娠および電気ショックなどがある。

1 )放射線ionizing radiation
放射線にはX線, α線,β線, γ線,電子線,中性子線および陽子線などがある。X線がRoentgen (1895)によって発見されて以来,医学領域で疾病の診断や治療に大きな貢献をしてきた。近代医学ではX線を初めとして放射線の応用は必要不可欠なものとはってきている。しかし一方,人類は自然界における宇宙線や自然放射性物質に常に暴露されていることも事実である。
 発育中の胎児に及ぼす放射線の影響に関しては.数多くの実験的研究と人類に関する調査がともに集積されてきた。人類に関しては,原爆被爆者,医療放射線による被爆者,放射線の医療あるいはそれに関連する作業による被曝者などの両親から生まれた子供について研究されている。妊娠時の放射線被曝による胎芽あるいは胎児の障害は放射線の直接的影響である点において,そのほかの環境要因,たとえば薬剤投与による経胎盤的影響とは異なっている
 原爆被爆が医療被爆と異なるのは, (1)全身一回照射であること,(2)アイソトープ化された空気,飲料水および食品の摂取による間接的体内照射がみられたこと,さらに(3)両者の影響による相加的,相乗的な障害が存在したことなどである。さらに,被爆当時における個人の栄養あるいは心的状態に関しでも, 原爆彼爆の影響に関する考察に際しては考慮する必要があろう。
 投下された原子爆弾は広島ではウラニウム,長崎ではプルトニウム主であるから,前者では中性子.後者ではγ線による影響ということになる。(筆者注−ここはやや疑問)線種によって生物学的作用が異なり,個人によっても放射線感受性の遺伝的背景が異なることも考えておく必要があろう。

i) 原爆による放射線
胎内死亡 妊娠時に被爆した母体からの胎児の流・早産については明らかではないが,2.0km以内で被爆し,放射線症が発現した妊娠母体からは流・早・死産が多くみられている(Yamazaki et a1.. 1954 ;田淵ら,1965)。また.乳児期あるいは乳児期から学童期までの被爆児の死亡率は対照のそれより高率であることが知られている。妊娠母体の被爆距離が1.5km以内のものから出生した男児では被爆後1年目,女児では2年目から悪性腫瘍の罹患による死亡が多くみられたとの報告がある(三木,1960)。また, Yamazakiら(1954)は妊娠初期に長崎で被爆し,被爆距離2.0km以内にいた98例と対照および2.0km以上の被爆距離にいた113例とを比較して,胎生期,新生児期および乳幼児期の死亡率では被爆群が対照群のそれより高率であったと記載している。広島・長崎の胎内被爆児1,300例の被曝線量と死亡中に関する調査では,胎内被爆児の死亡率は被曝線量とともに増加するという結論が得られている(加藤.1972)。
発育障害 3.0km以内で被爆した胎内被爆児42例と対照児48例とについての形質人類学的調査によると,胎内被爆児には骨盤幅,肩巾および頭計測値の減少がみられている(舟橋.1955)。また,3.0km以内での胎内被爆児536例と対照児473例との身体計測では,被爆児の身長,体重および胸囲などは標準値より小さく,このうちの2例に白血病と子宮体癌の発令がみられている(平位1964)。胎内被爆児には発育障害があることをみとめた報告ーは多い(Blok,1975; Plummer、1961; Wood et a1. 1968)。広島において1.5km以内で胎内被爆した10才児の調査によると,平均身長が低く,成長がほぼ完了する17才ー児になっても発育の回復はみとめられていない(加藤.1973)。妊娠母体の被曝線量が100rad(1000mSv)以上であった胎内被爆児38例(対照児48例)の染色体分析では38%に染色体異常がみられたが,対照例では4%であったとの報告もある(Bloom et al., 1969)。
小頭症 広島での被爆時に妊娠前半期(6カ月以内)であった母体204例からの4才児で被爆距離が1.2km以内であった11例のうち7例に知能障害をともなった小頭症がみられている(Plummer, 1952)。長崎において2.0km以内で被爆した妊娠母体98例については,急性放射線障害(脱毛,咽頭口腔障害, 紫斑病および皮下出血などの症状がみられた30例のうち7例に胎生期死亡, 6例に新生児期および乳児期死亡.また生存児16例のうち4例に知能障害がみられているが,これらすべての症例の頭囲は対照児に比較して有意に小さかった(Yamazaki,1966)。広島で爆心地から2.0km以内の胎内被爆児169例の10才児のうち33例では頭囲が小さく,このうち15例は知能障害を合併していたが,知能障害合併例は、すべて妊娠7-15週に被爆していた(Miller,1956)。知能遅滞を有する胎内被爆児25例のうち16例は被爆距離1.5km, 5例は2.0km以内であった(Wood et al. 1968)。広島で1.3km以内の胎内被爆による20才-児の小頭症12例の全例は知能障害を台併し,そのほかの異常として色素異常, 近視あるいは視力の低下などもみられている(田淵ら,1965. 1968)。生存胎内被爆児の骨格には異常はみとめられていない(Sutow et al., 1954)。
 広島の爆心地から距離3.0km以内の胎内被爆児545例のうち45例(8.3%) に小頭症がみとめられ,とくに妊娠3カ月以内の被爆母体から生まれた児に有意に高率に発生している(志水, 1968)。
そのほかの異常 胎内被爆児には小頭症のほかに,天幕付着部高位, トルコ鞍異常,前頭骨骨腫.胸骨細小,滴状心,短指症,棟骨端横線,足指骨欠損,股関節脱臼,重複腎孟尿管,皮膚の色素沈着および脱出などがみられている〔田淵ら, 1965, 1968)。剖検例では,大脳半球の狭小,側脳室における灰白質異所性発生,乳頭体欠損,身体発育遅延,小眼球, 小角膜,黄斑部欠損,先天性白内障,骨の発育遅延,小頭蓋およひ潜在性二分脊椎などがみとめられている(大津留,1968:嘉村ら,1968;横田ら.1963)。これら胎内被爆とそのほかの先天性脳疾患との変質徴候の保有度については.有馬(1968) の詳細な報告がある。
広島では胎生18週以前に線量10-19rad(100-190mSv)による被爆群にも小頭症は増加しているが,長崎では150rad(1500mSv)以上の高線量によって初めて小説症の増加がみられたことから、広島と長崎における線質の差異のほかに, 地域による環境要因の差を重要視すべきであるとの考えもある(加藤,1973)。
悪性腫瘍 統計的には,小児癌や白血病の増加傾向は現在までにはみられていない(加藤, 1973)。
生殖機能の陣害 胎齢1- 3カ月に胎内被爆して成長した女児には初潮の遅延がみられたが(田淵. 1964),胎内被爆した26-27才女性の完全不妊はみとめられていない(加藤.1973)。


 統計的には証明されていないのかもしれませんが、この記述は放射線被曝によって、奇形が起きることを明確に論じています。なぜ、このような分析があるにもかかわらず、放射能を被曝しても奇形は起きないとABCCが科学的に証明できているのでしょうか。

出生時障害(1948−1954年の調査)(放影研)
 原爆被爆者の子供における重い出生時障害またはその他の妊娠終結異常が統計的に有意に増加したという事実は認められていない。広島・長崎のほぼすべての妊娠例に関する調査が1948年に開始され6年間続いた。その間に新生児76,626人が、ABCCの医師による診察を受けた。調査が開始された当時の日本では、特定の食料品について配給制が採られていたが、20週以上の妊婦については特別配給があった。この特別配給申請者に関する情報に基づいて、両市における妊娠女性の90%以上が確認され、出生時障害の調査が可能になった。

そしてこのABCCの資料をもとに、(平成24年5月13日にふじみ野市で行われた講演)
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 この林教授の分析とは全く違った結論を出した放影研=ABCC その目は、一体何処に向いているのでしょうか。そして、このような冷静な分析をしている著作を全く無視して、未だに被曝では奇形児は生まれないと主張する医師たち。私は非常に憤りを覚えます。

■先天奇形図譜シリーズ
林一郎の先天奇形図譜を読む(1)−目次2013年05月20日
林一郎の先天奇形図譜を読む(2)−放射線と奇形との関連2013年05月20日
林一郎の先天奇形図譜を読む(3)−剖検例(10,834)全体の分析2013年5月21日
林一郎の先天奇形図譜を読む(4)−無心体と二重体2013年05月22日

◆関連ブログ
原爆と核実験場での放射能と奇形児(600万アクセス)2012年10月04日
長崎の黒い雨とABCC、保険医協会2012年12月09日

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posted by いんちょう at 22:06| Comment(4) | 原子力
この記事へのコメント
この記事の中のいくつかの報告事例では、「有意」であったという記述があるようですから、それらについては、検定をしてその現象が有意だった、という意味で言っているようにみえます。それらの個々の論文にその証明がありませんか。また、原論文にデータが記載されていれば、有意かどうかに関する検定は、今時は、Excelで簡単に計算できますね。Excel専用テキストも書店で売っています。
昔の医学論文ですから、それがだれであれ、古典的記述統計手法をなぞっているはずです。医学の世界ではそれを統計的な証明といっているのではないでしょうか。もしかすると、「統計的には証明されていない」などというべきではないのかもしれないですね。
Posted by つきのわっくま at 2013年05月20日 23:35
記事と関係ないですが、日本は女性についてどう思っているんですか?

危険極まりない、子宮けいがんワクチンを
少女に接種を勧めるのを義務付け???

重篤な副反応(なぜ副作用と言わなくなったんですか?)
が出ているこのワクチン、効果は雀の涙ほど、
なぜこんなものを??

もうだいぶ前に、外国で死亡例まで出て不妊になるとも言われてて、
問題になっていたワクチンじゃないですか!!

なんでこんなものが、たった1カ月の審査で
承認されてんですか???

子供を産む性を何だとおもっているんですか??
橋下同様、女性は子供生むのと男性に快楽を与える
家畜と思ってんですかね?
この国の中枢にいる人たちは、狂ってる。
Posted by なぜ こんなことに at 2013年05月21日 16:03
>記事と関係ないですが、日本は女性についてどう思っているんですか?

先日、橋下氏の「従軍慰安婦問題」の記事へコメント(3件?)された方でしょうか?
HNが違いますが、同一の方であれば同ネームだと有難いです。

(同一人物だと仮定して)
海外からのようですが、橋下氏発言の「怒り」、ワクチン接種への「懸念」は理解致します。
ですが、他者を工作員扱いしたり、読者の方々へと向けるのは・・
決して、責めるべき「敵」では無い筈です。


私自身も頸ガンワクチン接種等への強い懸念があります。
ずっと頭に引っ掛かっていました。
最近、副作用について報道や国会でも取り上げられ、懸念をお持ちの親御さんはとても多いのではないかと想像します。

放射能防護と同様、「非常に重要」な問題で、医師、医療関係者、国民が真摯に考えなければいけないと感じます。
決してスルーされる問題では無いと。


院長先生、スレ違いで大変申し訳ありませんが、以下コメントご容赦下さい。
(本当は、詳しい方にコメントして頂けると有難いのですが)


ちょっと待って!子宮頸ガンワクチンを受ける前に
http://m.youtube.com/watch?feature=related&v=20zlGFIaU58

子宮頸ガンワクチンの危険性
http://www.thinker-japan.com/hpv_vaccine.html

特別レポート
http://tamekiyo.com/documents/healthranger/hpv.php

国内でも、頸ガンワクチン接種について懸念をされている医師もいらっしゃいます。
http://satouclk.jp/cat11/

以下、関連です。

http://tamekiyo.com/documents/healthranger/vaccinefullstory.php

http://tamekiyo.com/documents/W_Engdahl/gates.php

http://ameblo.jp/mt-rich2012/entry-11501785268.html

http://matome.naver.jp/m/odai/2136722192815769401

http://www.thinker-japan.sakura.ne.jp/dontvaccinated.html

オルタナティブ通信関連記事です。

http://alternativereport1.seesaa.net/article/120488296.html

http://alternativereport1.seesaa.net/article/176631633.html

http://alternativereport1.seesaa.net/article/182682847.html

http://alternativereport1.seesaa.net/article/183814284.html

※重要な問題だと思いますので、多くのリンクを貼らせて頂きました。
引用元のブログ主様、大変感謝致します。


戦争(軍事)=エネルギー(石油・原子力)=メディア(洗脳)=教育=食(現代栄養学・遺伝子組み換え等)=医療・薬品他
すべてが権力の傘下、繋がっている懸念だと感じます。
放射能問題と同様、真実(事実)を知らなければ「生きられない」・・
大変ですが、情報の共有・助け合いが求められているのではないでしょうか?
Posted by 思考 at 2013年05月23日 01:32
フクシマの真実と内部被ばく、3月10日in徳島を拝聴させていただきました。間違いが2つ。
@肥田舜太郎先生のお歳は96歳です。1917年生まれなので。
A「福島の子どもたちからの手紙」から引用された手紙の原文には、「わたしは」の後に、「ふつうの子供を産めますか?」があります。私は、8月17日の政府交渉の会場で、机の上に並べられた40通の手紙を撮影した画面から、このことを確認しました。出版した朝日新聞出版は、原文からきれいにこの部分をカットしています。恐るべき真実隠しです。
小野先生がおっしゃたように、真実は自分で調べないとわからないことの実証です。
しかし、朝日新聞ですらこのような悪行をなすということは、真実を手に入れることの困難さをますます実感させられますね。
良い講演を有難うございました。お元気で。
2013、5・23 小田
Posted by 小田美智子 at 2013年05月23日 21:12
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