事実、沸騰水型は、(大きく報道はされていませんが)原子炉の下部から制御棒が入り、かつ最上階に使用済燃料プールがあるといった今回のシビアアクシデントを起こす原因となった設計上の欠陥があきらかになりました。沸騰水型は、現在でも建設コスト、発電コストともに加圧水型とは比較にならないほど不利なのですが、それでも東電が採用し続けた理由は、加圧水型よりも安全性に優れているとされてきたからです。今回の事故で、唯一の利点である安全性が根底から崩れてしまったわけですから、沸騰水型原発を新しく採用するまともな国はないでしょう。(補助金がついていれば別ですが)
そして、規制委員会に再稼働を申請しているのはいずれも加圧水型の炉形を採用している電力のみです。沸騰水型原発はどうなるのだろうかと思っておりましたら、なんと事故を起こした東電が一番乗り。(トップを走るような能力を持つような沸騰水型原発採用電力は東電以外にはないことが、良くおわかりでしょう。)
その先陣を切った東京電力にかつてお世話になった姉川尚史氏の顔がありました。
田中龍作ジャーナルから
東電・柏崎刈羽原発 シナリオ通りの安全審査申請

東電の姉川常務は百科事典のような膨大な資料を添えて安全審査の申請書を提出した。=27日午前9時30分 原子力規制庁 写真:筆者=
私が本店原子力技術課に勤務しているときに、建設部の尾本彰課長(事故当時 原子力委員会委員)のもとで安全グループの副長をしていた姉川尚史氏がでてきたのには驚きました。。私は発電部の武藤栄課長(事故当時副社長)−(発電所の)安全グループだった高橋毅副長(前1F副長)のもとで仕事をしていました。建設中の発電所の安全を考えるか、既発電所の安全を考えるかの違いはありましたが、電事連でもおなじ立場で参加をしていましたので、大変お世話になりました。かなりのマックオタクで、1994年当時に尾本課長(かれもマックオタク)とともに、当時はまだ珍しかったイーサネットでLANをはり、マック関係の雑誌に特集が組まれたほどでした。
当時の発電部はまだワープロ全盛でしたが、私が入ってからWindowsのパソコンを1台購入してひとりでWindowsをつかっていましたら、姉川氏が後ろで私の画面を眺めて、「ウーン、うつくしない」と一言。真意を聞きましたところ、マックはなめらかにマウスカーソルが移動して、かつ速く動作させると加速がついて、うつくしいとのこと(このアルゴリズムは特許で守られていて、Windowsでは採用できないらしいです)。とにかく一風変わっていました。
私が会社を辞めるときに、「本当は何になるんだい?」と聞いてこられたので、姉川さんには正直に「医学部に進学して、精神科医になりたい」と話しました。(会社に医学部受験を話すと、入学試験さえ妨害されるのではないかと当時はおそれていました)その時に、餞別としていただいたのが 「生きがいについて 」神谷 美恵子 (著)でした。
その後も年賀状のやりとりはしていたのですが、途中でなんと進路を変更。
原発から電気自動車へ転身
技術結集次世代へ挑戦

「石油エネルギーに頼り切っているクルマ社会を変えなくては」
東京電力で原子力発電所を担当する技術者だった姉川尚史(たかふみ)さん(50)が、電気自動車(EV)の開発を進めたいと会社に申し出たのは2002年のことだった。
電力会社の花形部門から、海の物とも山の物とも分からない新分野への異動希望に上司らは驚がくした。
電池でモーターを回すEVは、排ガスが出ず、環境に優しい乗り物として、18世紀から始まる自動車開発史の中で常に注目され続けてきた。が、航続距離の短さなどで普及せず、ガソリン車の後塵(こうじん)を拝してきた。
当時は、充電に8時間もかかって航続距離は100キロ程度、価格は何百万円……。「EVの普及は難しい」。社内でもその見方が大勢を占める中、姉川さんは、「地球温暖化が進む、これからの社会には絶対に必要なもの。だからこそ自分にやらせてほしい」と粘り強く説得を続けた。
姉川さんは大学院で原子力工学を学び、同社の発電電力量の38%を占める原発事業に約20年間、携わった。発電の世界では、早くから石油だけでなく、原子力、天然ガス、水力と特定の電源に偏らない分散化が進められてきた。
生活者の足であるクルマはそうではなかった。
姉川さんの熱意に会社も重い腰を上げた。「やる以上は退路を断ってやれ」。そう送り出された。
同社は04年、横浜市鶴見区の「東京電力技術開発研究所」に、「電動推進グループ」を設置。姉川さんがマネジャーに就き、開発を本格化させた。
それまでは航続距離を伸ばすことに主眼が置かれてきたEV開発。だが、姉川さんには、「航続距離は短くても、急速充電が可能な小型車なら市場で受け入れられる」という考えがあった。姉川さんは急速充電技術の開発に的を絞った。
◎
「神奈川には、新車開発を支える技術がある。電気自動車だって何だって新しいモノを生み出せる環境がここにある」
(中略)
姉川さんらが開発に成功した急速充電技術を搭載した富士重工業の「スバルR1e」の試作車が06年6月、発表された。09年にはついに家庭用電源からでも充電可能な普及車が発売される。充電器は横浜市の精密機器メーカー製、大容量の新型リチウムイオン電池は相模原市のメーカーが製造する。京浜工業地帯で培われた技術が新しい時代のクルマ作りを支えている。
エンジン音がせず、風が流れるように走る電気自動車は、21世紀の「空飛ぶ軽い羽」。化石燃料からクリーンエネルギーへと、自動車産業を根本から変える先駆者となるのか。姉川さんの胸には、新しいクルマ社会の未来予想図が描かれている。(有泉聡)(おわり)
(2008年1月12日 読売新聞)
「退路を断ってやれ」と言われてまで新分野に飛び込み、これから本格的な電気自動車の普及が期待されていた矢先に311がおき、彼の運命も大きく変わってしまいました。事故が起きる前に一度だけ電話で話したことがあるのですが、「東電というのはひどいところだ。人の成功をねたんでここまで陰湿にやる人間がいるとは呆れてしまった」とこぼしていました。充電用のプラグの開発からやっていたとのことですが、東電に大事故が起きてしまい、当然の帰結として原子力村に再度引きずり込まれてしまいました。
東電役員に並ぶ「異端者」 にじむ危機感(真相深層)
原子力部門のナンバー2となる常務執行役に、原子力設備管理部長の姉川尚史(56)を抜てきした人事も波紋を広げた。
原発の技術者である姉川の経歴は異色だ。原子力部門の中枢から技術開発研究所に転じて電気自動車(EV)の普及に奔走した。EVの充電方式で世界標準をめざす「チャデモ協議会」の事務局長を務め、むしろ自動車業界で名が通る。
事故を受け原子力部門に戻った姉川に転機が訪れたのは昨年3月。原発のストレステストの報告書で、東電は239カ所もの誤りが見つかった。
「なんでこんなに間違えるんだ!」。問いつめた原賠機構の幹部に姉川は平然と答えた。「従来のように原子炉メーカーに任せればミスはゼロだがそれではダメ。自分たちの手でやるのが大事だ。私は会社の文化を変えたい」。姉川を原子力改革の要にあてる構想はこの時に固まった。
東電が設けた「原子力改革監視委員会」の事務局を率いると、昨年10月の初会合で「事前に必要な津波対策を取ることは可能だった」とする見解をまとめ、対策の不備を初めて認めた。姉川は「会社の見解は変わった」と発言。OBから「裁判でどうなると思っているんだ」と責められても意に介さなかった。
姉川さんらしいと私は思います。やや猫背で訥々としゃべる感じは、20年前と少しも変わっていない印象を受けます。
どうなる福島原発、汚染水問題【言論アリーナ】(上)何が起こっているのか?では、田原総一朗、池田信夫、石井孝明といった蒼々たる御用論説員とやり合っています。

姉川氏一人をとっても、東電の人材の豊富さが良くわかると思いませんか?1993−95年に本店にいた私は、今考えれば大変貴重な経験をさせてもらいました。一度、姉川さんとお話しできればおもしろいと思うのですが、叶わぬ夢でしょうか・・・
◆関連ブログ
近藤駿介原子力委員長の電力業界との癒着2012年05月24日

この記事でご指摘の通り、姉川氏は恐らくEV、特にチャデモ規格の標準化や普及で著名でしたし、私もその辺の関係でお目に掛かったのですが。
確かに彼が以前は原発関連にいたとは知っていたのですが、一度原発から足を洗った人間を重要なポストに付けるほど東電には人がいなくなってしまったんですかね。
まぁ私の戯言などどうでも良いのですが、姉川氏には一刻も早く汚染水による海洋汚染やフクイチの安全な収束で是非ご活躍頂きたいです。
●規制委、審査体制見直し
柏崎原発 担当班新設も視野
原子力規制委員会は2日、沸騰水型原子炉では初となる東京電力柏崎刈羽原発6、7号機の安全審査の申請を受け、審査体制の見直しに入った。沸騰水型を担当する20人程度の担当班を新設することも視野に入れている。4日にも見直しの方向性を明らかにする方針で、具体的な体制が整い次第、実質的な審査に入る。
新たな班ができれば、沸騰水型で唯一申請している柏崎刈羽はすぐにでも設備面での実質審査が始まりそうだ。ただ、両基の直下には断層があり、その審査が優先されて長期化する可能性もある。
規制委は今月中旬にも、審査に携わる職員として18人を中途採用する。柏崎刈羽の審査体制は、沸騰水型初の審査対象であることも踏まえたメンバーとする考えで、中途採用者の中からの配属や現在、審査に関わっていない職員の活用も含めて検討する。
規制委はすでに、電力4社から申請があった6原発12基を審査。設備面をチェックする3班がそれぞれ3〜5基を分担するなど、現行の約80人体制では柏崎刈羽の審査を並行して行うには手一杯の状況で、体制見直しを迫られていた。
先行する原発の審査では、敷地内断層の問題を抱えている場合、断層の活動性評価が優先されてきた。柏崎刈羽6、7号機直下にもd何層が確認されており、評価が定まるまでは設備面の審査が中断する可能性がある。
規制委は同日、定例会議で、柏崎刈羽の審査の基本方針について、福島第1原発の汚染水問題で東電の対応がおろそかにならないよう審査の過程でも注意を払うことで一致した。
田中俊一委員長は「これまでに申請があった原子炉とは違い、(東電には汚染水問題を抱えるなど)極めて特殊な事情がある」と指摘。「(申請を)受理したが、東電は福島第1原発の汚染水、廃炉問題が万が一にもおろそかにならないようにしなければならない」とくぎを刺した。
また、田中委員長は会合後の会見で、汚染水問題がさらに深刻化するなどした場合、「東電が一義的にやらなければならないのは福島第1の問題。総力を挙げてもらわなければならない」とし、柏崎刈羽の審査の中断もあり得ることを示唆した。
・・・要は、とにかく柏崎刈羽原発をいち早く再稼働させたいから、電力会社の中で一番遅く審査申請をした(まぁそれは、こちらの泉田知事が原因なのですが(笑))東電を、最優先で審査できるよう、影で国が動いて、それにより規制委が便宜を払った、という事ですよね?
断層の評価やら汚染水問題次第では審査の中断もあり得る、と相変わらずの希望的観測を新潟日報はしておりますが、どうせそこも、国が規制委にごり押しして、問題なしとさせちゃうのでしょ。
事故時には下請の人を使わず、どんなに被爆しようと率先して動き犠牲になっても、一般国民を救おうとするのが、そこで下請を使い普段偉そうしている者の責任というものです。それが誰も責任を取らず、さっさと関連会社に天下るとは、腐ってますわ。 まあ、民主党政府も「直ちに影響がない」などとぬけぬけと言って、国民に知らせず付近の方達を見捨ててしまうわ、マスコミは定点カメラだけ置いて50km内から同じく逃げ出すわ、気象学会?も情報を出さないわと、どいつもこいつもクズですわな。昔の武士なら切腹してお詫びもんです。更に゛優秀な゛官僚諸氏もさっさと国民に付け回しだけして、解決したかのようにうやむやにしてしまうお膳立てをするとは、さすがですな。また別の形で同じ事が起きますわ。 「古来美しい日本の国土をこれ以上汚さないで欲しい」というのが、右であろうと左の考え方の人であろうと、まともな者の願うところのはずですな。 残念ながら、昔、海外を旅してた時、バックパッカー仲間から言われた「何か政変など大きな事があったら、日本の大使館・領事館は助けてくれないから(自分達が大事で、貧乏旅行者など最後の最後か、ほったらかし)、他の国のそれに逃げ込んだほうがいい」というのを思いだします。