2013年10月13日

使用済み核燃料の表面線量10万Sv/hr(新品の1億倍)・・4号機プールが危険なわけ

 4号機の燃料プールからの燃料取り出しが、いよいよ始まります。これでしくじったら、世界が終わりとか、プールが地震で倒壊しても半径1000キロが住めなくなるといった話を良く聞きます。しかしながら、なぜ危険なのかといった説明が一切ないために、半信半疑でいる方も多いことでしょう。私自身は4号機プールからの燃料取り出しは、本質的なフクシマ収拾の第一歩であり、かつもっとも容易なステップだと思っています。何しろ、今ある技術を総動員すればできるわけですから。

 4号機燃料プールに貯蔵されている使用済み燃料。私が本店の原子力技術課に勤めているときに燃料グループの人間から教えてもらったのは、
「使用済み燃料が空中にあれば、近くにいる人は全員即死するよ」
の言葉でした。では、実際の表面線量はどの程度か。

Case3 使用済燃料貯蔵プール(汚染水)への転落から
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使用済燃料棒の表面の線量率:108mSv/h
とありますから、105Sv/hr = 100,000Sv/hr (10万Sv/hr)です。

松江市の質問事項に対する回答について
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これで見ても、2x107mSv/hr ですから、だいたいオーダーとしては正しいですね。

ヒロシマの爆心地が103Svですから
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約4秒表面近くにいれば、爆心地の線量を浴びてしまうわけですから、たしかにそこら中にいる人は即死します。

軽水炉の使用済燃料 (04-07-01-02)
図1 放射性核分裂生成物の減衰
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10年で約100分の1になりますが、それでも使用済み燃料の表面線量率は、1,000Sv/hrもあります。このような燃料が1331本も4号機の燃料プールに貯蔵されているわけですから、倒壊したら終わりという言葉も頷けます。では、この使用済み燃料を再処理して作られる高レベル放射性廃棄物の線量も合わせてみてみましょう。

高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)とはどんなものなのでしょうか
 液体状の高レベル放射性廃棄物をガラス原料とともに高温で溶かして、ステンレス製の容器(キャニスタ)に入れて冷やし固めたものをガラス固化体と呼んでいます。
 つくられた直後は放射能、発熱量共に高いのですが、時間の経過にしたがってその値は小さくなっていきます。また、適切なしゃへいなどの対策を施すことで安全に管理できます。

Q.ガラス固化体とはどんなものなのでしょうか。A.ガラス固化体は液体状の高レベル放射性廃棄物をガラス原料とともに高温で溶かし合わせたものをステンレス製の容器内に入れて冷やし固めたものです。ガラス固化体は直径43cm、高さ約1〜1.3mの円筒形、重量は約400〜500kgです。
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Q.ガラス固化体は近づいても大丈夫なものなのでしょうか。
A.製造直後のガラス固化体は放射線量が高く人が近づくことはできません。しかし、放射線量は放射能量と同様に時間の経過に従って減衰しますし、適切な遮へい等により影響は十分低減できます。

 製造直後のガラス固化体(日本原燃(株)仕様)の放射線量は、その表面の位置に人間がいた場合、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告の中で100%の人が死亡するとされている放射線量(約7Sv(シーベルト))をわずか20秒弱で浴びてしまうレベル(約1,500Sv/h)です。
 しかし、放射線量は対象物から距離をとることや、遮蔽を施すことによっても、その影響を低減することができます。例えば、製造直後のガラス固化体でも、1m離れた位置に厚さ約1.5mのコンクリートの遮へいをほどこすことにより、法令上の管理区域(この区域に立ち入る人は浴びた放射線量の管理をする必要があります)を設定しなくてもよいレベルになります。
 ガラス固化体は、処分するまで30年から50年の間貯蔵され、さらに、処分を行う段階においてはオーバーパックという厚い金属製の容器に封入されるので、その表面における放射線量はずっと減少します。
 例えば、50年後には放射能が約1/5になり、表面の放射線量は約1/9になります(表面で約160Sv/h、表面から1m離れた位置で11Sv/h)。さらに、オーバーパック(厚さ19cm)に封入することにより、オーバーパック表面の放射線量はずっと小さくなり、表面で約0.0027Sv/h、表面から1m離れた位置で約0.00037Sv/hとなり、1m離れた位置に約0.8mのコンクリートの遮へいをほどこすことにより、法令上の管理区域を設定しなくてもよいレベルになります。
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JR東海の会長は、
≪平和利用国日本の技術に期待≫
 使用済み燃料の処理が不可能だとの理由で原発反対を唱える声を聞くが、放射性廃棄物の発生量は火力発電に比べ遥かに少なく、捕捉、貯蔵、管理が可能である。しかも再処理・再利用することで量的に減少し保管期間も短縮する。技術的には数百年程度に短縮する見込みが立っているという。

と恥ずかしげもなく述べていますが、核のことを何にも知らない、勉強もせずにうそを平気でついているのです。これで会長なんですから、日本の経済界も人材の宝庫ですね。

使用済み燃料を10年間冷やしたあとで、この高レベル放射性廃棄物を六ヶ所村で作るとすれば、なるほど数値として合います。

4号機のプールが倒壊して、そこらに使用済み燃料が飛散してしまったらどうなるか。人間は当然近づけませんし、ロボットなどの機械もすべて誤作動を引き起こします(回路中の電子などが飛ばされてしまうためとのことです)。ヘリコプターなども当然近づけないでしょう。これを心配しているからこそ、理屈のわかっている人が騒いでいるわけです。

 そして、この問題は4号機にとどまりません。
1号機〜6号機の燃料プールには
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もの燃料がいまだに貯蔵されていますし、さらに福島の4号機の近くには6375体もの使用済み燃料が使用済み燃料共用プール内に保管されています。

主要メディアが語らない核燃料6375本の共用プールの存在
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これらの燃料は全部取り出して、ドライキャスクに保管するしかありません(とりあえず、100年は持ちます)
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この使用済み燃料が溶けてしまった1〜3号機の格納容器内部など、想像もできないでしょう?われわれはとんでもないモンスターを作り上げてしまったのです。

なお、新品燃料は通常木箱に入れられ配送されます。人間が近づいてもまったく問題のないレベルです。(このため、4号機では最初に新品燃料が試験的に空中に取り出す形で搬出されました

新燃料が使用済み燃料になることで、2mSv/r -> 108 mSv/hr 約1億倍もの放射能を持つわけです。

未使用燃料の表面線量(参考)
新燃料表面線量率
ウラン燃料約0.03mSv/h
MOX燃料約2.2mSv/h

具体的な手法については、下記に詳しく書いてあります。4号機の燃料プールには海水も注入したはずです。海水で汚染された燃料を使用済み共用プールに入れても他の使用済み燃料に影響を与えないのでしょうか。また、高燃焼度燃料は、ドライキャスクにも入れられないようです。ほとんど積んでいる状況であることが、良くわかるでしょう(そして、これは1〜4号機の中では最も簡単な収束方法であることも再度確認ください)
福島第一原子力発電所4号機使用済燃料プール等からの使用済燃料取り出しの安全性について
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posted by いんちょう at 20:16| Comment(8) | 原子力
この記事へのコメント
11月に予定されている燃料のとりだしについて、その作業は危険すぎる!!などと騒がれていますが、このままでもとっくに危険だし、放置したままではもっとまずい事になるだろうこともなんとなく分かるし、じゃあどうすりゃいいのさ?と思っていました。今回の説明、素人の私にもものすごく分かりやすかったです。ありがとうございました。
Posted by わん at 2013年10月13日 22:56
ん、ん、ん?
共用プールに6,375体?
まずはこれを何とかしてからでないと
4号機プールで何かあってからでは
さらにひどいことになるんでない?
Posted by ん、ん、ん? at 2013年10月14日 00:41
いつも役に立つお話ありがとうございます。
Posted by アポロ13 at 2013年10月14日 10:05
 JR東海会長・葛西敬之を核廃棄物知見無しまたは詐称の反社会勢力として、一利用者として罷免要求しました。

ご意見・ご要望
http://jr-central.co.jp/info/customer-service.html
Posted by Cosmo at 2013年10月14日 13:20
ドライキャスクって燃料棒何本収納できるのですか?

これだけでもなんか凄いカネが掛かりそうですが?

きりん、しまうまってなんですか?

使用済み燃料棒のことだけを考えても、とても五輪招致なんて言えないように思いますね。ラジウム麻痺しているのでしょうか?
Posted by ハマの住人 at 2013年10月14日 13:58
誠に失礼しました。
先生のブログにちゃんと書いてありました。

http://onodekita.sblo.jp/article/57783010.html

上記サイトをご参照下さい。

一つのドライキャスクについて52体の保管しかできないそうですから、気が遠くなりそうです。

Posted by ハマの住人 at 2013年10月14日 18:13
小野先生、お疲れ様です^^
4号機使用済み燃料棒の取り出しについては、小野先生の他にも、色々な方がその作業の重要性と危険性について説明されていますね。その中でもFairewindsのアーニー・ガンダーセンさんは、『ジルコニウム火災』について懸念されています。私は技術的な詳細はよく分からないので、下の参考URLをご覧下さい。
http://kaleido11.blog.fc2.com/blog-entry-1742.html

私は素人ですが、それでも、使用済み燃料棒を取り出す作業員さんに掛かる責任と重圧が、まさに常軌を逸していることくらいは容易に想像できます。作業員さんのクレーン操作一つ一つに、少なくとも東日本の命運が掛かっているわけです。私だったら、あまりの責任の重さに、恐らく逃げ出しているでしょう^^;正直、日当10万円出たとしてもやりたくない仕事です。本当に、心の底から、作業員さん一人一人に対し、頭が下がる思いです。

しかし、私には東電がこの現場作業の重要性について、正しく認識しているとは到底思えない。収束作業費用はどうせ総括原価の中に含まれるでしょうから、ただカネを出すだけなら東電としては別に痛くも痒くもないわけです。そして実際に、それなりのカネを出しているのでしょう。まぁ最終的には電気代に上積みされて私たちが支払うワケですがw

それなら何故、作業員さんがあれ程非人道的な条件で働かされているかと言えば、所謂スーパーゼネコン(笑)が多重請負構造の中で、本来は作業員さんが受け取るべきカネを貪っているからに他ならない。そして請負元の東電が、その実態を知らないハズがない。これを『監督責任の放棄』以外に何と表現すればいいのか。

まさに、講演会や他の記事で小野先生が仰っている通り、『カネを払った商品に文句を言うお客様』感覚なのでしょうね。自分たちが事故を引き起こした張本人であると言う当事者意識がゼロ。作業員さんの労働環境などどうでもよくて、カネさえ出していれば誰かがどうにかしてくれると思っている。

こんな地獄の中で、仮に作業員さんがクレーン操作を誤り、燃料棒を取り落とす、或いは使用済み燃料プールを損壊させてしまったとしても……私には作業員さんを責める気になんて、到底なれない。
Posted by ぽこ丸 at 2013年10月15日 22:22
デブリの表面線量率を教えてください。使用済み溶融燃料は10万シーベルトと書いてありますが、デブリは低いと思うのですが
スリーマイルから貰ったサンプルを分析したデータがある筈ですが、見つけられませんでした。
Posted by 三宅 勇次 at 2016年03月07日 13:31
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