「会社のものを私物として使ったらいけないよ」
今から40年近く前に祖父に言われた戒めです。社会人になるまではピンときていなかったのですが、東京電力に入社してから、その重みが分かるようになってきました。学生時代と違って、監督する人も助言してくれる人もいませんから、やろうと思えば何でもできます。同窓会の案内を会社の封筒で送ってきたり、あるいはひどいのになると結婚式の案内状を社内便で送ってきた人もいました。いずれもささいなことではありますが、その人の性根が伝わってくる感じがしたものです。
1988年に入社して、1989年1月から福島第二原子力発電所、第一保修課(だいいちほしゅうか)タービン班に配属されました。タービン班の守備範囲は原子炉周り以外の機械をすべて担当します。1回の定期検査あたり、当時の金額で概算30億円〜50億円程度の工事の予算、見積もり、現場監督を10名ほどで担当していました。
電力会社は自分では手を下さずに、お金を出して工事をしてもらう立場にあるわけで、現場に行くと「お客さんがきた」と言われます。自分の施設なのにおかしな話ですよね。これらの工事を行うのは、5社〜10社程度で、始まりにはキックオフミーティング(と称した飲み会)、終わりにはお疲れ様でした飲み会が執り行われていました。そのときの費用は、関連企業が出してくれますので、電力社員の負担は一銭もありません。だいたい二次会のスナックに行って、タクシーで帰ります。5社ともやれば、2週間程度はかかります。そうやって、電力社員はごちそう慣れしていきます。
新入社員の研修旅行で新潟の柏崎刈羽原発にいき、宿泊した旅館で豪華な宴会がありました。同僚の新入社員の一人が、
「この費用って電気料金からでているんだよね」
とぼそっとつぶやいていましたが、そんな矜恃はすぐになくなってしまいます。
5000万円程度の(原子力の工事では非常に小ぶりです)工事監督をやっていた私にも担当の企業産からタクシー券を束で渡されて、自由に使ってください。と言われたこともあります。もちろん(といえるかどうかは、かなりあやしいですが)お断りしました。まだ、20代の私の転勤が決まったときにも、関連企業全社から5〜10万円程度の餞別(はっきりした金額は覚えていませんが)をもらいました。うまく返せなかった1社を除いて返却しましたが、今までの担当者はたぶんもらっているでしょうし、役職者になるともっと金額が高くなるのは、当然でしょう。
勤務中によくわからない委託研究を5000万円で作れと言われて、??と思いながら、稟議書を作成したことがあります。当然あやふやな内容で、当時厳しかった発電部長は、「小野、おまえなんだこの研究は?」としかられたときに、副長が、「部長、これはあの案件です」と耳打ちしたところ、「なんだ、それを早く言え」といわれておしまい。簡単に承認されました。あまりにひどい報告書をその委託会社(東電の関連企業でした)が持ってきた時に、当時生意気な20代の社員だった私は怒ってしまいました。その報告書を持ってきたうちの一人が武黒(東電ビデオ会議に出てくる人)さんで、「ここに喫茶店はあるかな?コーヒーを頼もう」とうまくその場の雰囲気を取り繕いました。つまり、電力会社にはしてもしなくてもよい工事、委託が天の声として降ってくることがあるわけです。
以上を踏まえると、今回の関電賄賂事件も見えてくるのではないでしょうか。
・電力社員は新入社員の時から、いろいろと付け届けをもらうことになれている
・天の声(重役指令)で降ってくる工事は、簡単に承認が通る
私が東電に勤めていたのは、もう30年以上も前ですから、今とはもちろん違っているでしょう。でも、本質的なところはなかなか変わらないのもみなさんご存じの通り。フィクサーと言われた元助役は、電力会社のアキレス腱をよく分かっており、個人にお金をばらまいていたのだと思われます。また、経団連の日立の重役も「友達だから、何も言えない」と逃げていましたが、メーカーも電力会社社員にお金をばらまいているはずですから、「物言えば唇寒し」になるわけです。
そして、いまけしからんと息巻いている大阪市長、かれらも万博やカジノで関西電力からの多額の寄付を期待しているのではないのでしょうか。その原資は、すべて庶民の払った電力料金なんですから、そんな余裕があるのだったら、電力料金を下げるべきではないのですか。
なぜ、こんなばかげたことがまかりとおるかと言えば、「総括原価方式」で運営されていたからです。必要な経費は認められて、その経費が大きくなればなるほど利益が増えるわけですから、工事料金を水増しした行為は、「必要経費を増やして、利益を増やす」となり、会社のためにもなります。
他電力はそんな事案はないと説明してくるでしょうが、関西電力のようなことをしていない会社などないはずです。今回隠せばそれは弱みとなり、カネを渡した組織は電力会社に貸しを作れます。この打ち出の小槌ともいえる電力会社を利用してきたのが、地元自治体であり、政治家でしょう。電力社員に環流した額の10〜100倍がながれているのは、火を見るより明らか。


posted by いんちょう at 11:48|
Comment(6)
|
原子力